北京では、2022年12月から2023年3月にかけて、重要な会議がいくつか開催された。2022年12月15日―16日に開かれた「中央経済工作会議」、同年12月23日―24日に開かれた「中央農村工作会議」、2023年1月9日―10日に開かれた「第20期中央規律検査委員会第2回総会」、同年2月26日―28日に開かれた「中国共産党第20期中央委員会第2回総会(党20期2中全会)」、同年3月4日―11日に開かれた「2023年度政治協商会議(政協)」、同年3月5日―13日に開かれた「2023年度全国人民代表大会(全人代)」などである。中国では、毎年3月に開催される政協と全人代を「両会」と称している。
このうち党20期2中全会は大変重要で、党と国家の機構改革、全人代と政協、国家中央軍事委員会の人事案などが討議された。つまり政協、国家、国務院、軍の主要人事は、事実上政協会議、全人代会議で討議、決定されるのではなく、政協、全人代開催の直前に開かれる党の中央委員会総会で決まるのである。党の決定、方針を受け、政協人事は政協で、国家、国務院、軍人事は全人代で採決される。もちろん党の方針に「NO」と言う事はない。経済問題に関しては、毎年年末に開かれる中央経済工作会議が重要で、この会議で決定された経済政策は、「党の提案」として、翌年3月に開催される全人代に示される。全人代は、この「党の提案」に基づいて具体的な経済政策を決めるのである。
さて、中国政府は2022年12月に「ゼロコロナ」政策を終了させた。ポストゼロコロナの主要な課題は、ゼロコロナで落ち込み、このままでは破綻しかねない経済を回復させる事だ。
ゼロコロナ政策が経済面に与えた影響は大きく、生産、流通、消費の大きな落ち込みを招いた。経済が正常に回ってゆくには内需と外需が必要だが、ゼロコロナ政策は特に内需に大きなダメージを与えた。中国のゼロコロナ政策は、初期の段階では有効だった。コロナを抑え込むことにより、中国はいち早く生産を回復させ、世界経済の回復をけん引した。2020年の経済成長率は、主要国の中で中国だけがプラスだった。ところが長く続いた極端なゼロコロナ政策の結果、経済全体が分断され、麻痺状態に陥った。同時に自由を束縛された人々のフラストレーションは蓄積し、爆発寸前にまでになった。一方、欧米などの先進国はゼロコロナ政策からウイズコロナ政策に転換、着実に経済と国民生活の正常化を実現した。今や世界第2の経済規模となり、貿易総額世界1となった中国の経済回復は、世界経済にとって喜ばしいことであると、世界のマーケットは中国のゼロコロナ政策終了を歓迎した。そういう中での2023年の幕開けだった。
全人代で提起された、経済面での今後の重点政策をまとめると以下の通りである。①内需拡大の取り組みの強化、内需型成長への転換加速、②現代化産業構造への転換の加速、③公有制経済の発展(国営企業)と非公有制経済(私営企業)発展への支持と指導の強化、④積極的な外資誘致と外資の有効活用、⑤重大な経済・金融リスクの効果的防止、解消。特に地方政府の債務リスク、不動産リスクの早期解消、⑥不動産市場の安定化、住宅政策の改善、⑦科学技術、新エネ発展のための政府支援の強化、⑧技術面での海外依存度を低下させ、国内中心のサプライチェーンの構築。
私の親しい友人である中国の経済評論家は、今の中国経済についてこう語った。「経済にとって、ゼロコロナ政策の終了は非常に喜ばしいことだ。手放しで楽観することは出来ないが、今年は尻上がりに経済が回復するだろう。基本の消費が回復すれば、その効果は各分野に波及する」。
中国の、昨年通年の経済成長率は+3.0%だった。全人代で決められた目標「5.5%前後」を大きく下回ったが、この数字をどう見るかだ。低すぎた成長率に悲観的になるか、或いはあれだけ極端なゼロコロナ政策下でもプラス成長する中国経済の底力を再認識するかだ。参考のために主要各国のGDP総額ベスト5と、2022年の成長率を見てみよう。
順位 国 家 G D P 総 額 対前年比成長率
1 米 国 25兆3468億ドル +2.1%
2 中 国 19兆9116億ドル +3.0%
3, 日 本 4兆9121億ドル +1.1%
4, ドイツ 4兆2565億ドル +1.9%
5, インド 3兆5347億ドル +6.7%
まあ、極端なゼロコロナ政策の下で、他の主要国に比べても、3%の成長を確保できたことは「善戦」と言えるだろう
実際の経済状況を見ると、今年2月の製造業景況感(PMI)は52.6で、製造業と非製造業の総合PMIは56.4だった。ゼロコロナ政策が終了し、生産が正常化しつつある結果である。先ず回復基調に乗ったのは消費である。今年1-2月の社会消費品小売総額(小売売上高)は、前年同期比+3.5%と、2022年9月以来のプラスに転じた。ただ業種によりバラツキがある。レストランなどの飲食店収入は同+9.2%だが、耐久消費財などは回復が遅れている。新車が同-15.2%、スマホなどの通信機器が同-8.0%、家電、音楽映像機器が同-2.0%だった。特に新車販売は消費のバロメーターと言われる。1-2月の新車販売は同-15.2%だったが、1月は同-35%と大きく落ち込んだが、2月には同+13.5%と急回復している。
新車販売の内訳は、1月は164万9000台(同-35%)、2月は197万6000台(同+13.5%)。1-2月では、乗用車販売が同-15.2%、商用車販売が同-15.4%だった。しかし電気自動車(EV)などの新エネルギー車は好調を維持していて、全体で同+20.8%、この内EVが同+8.4%、PHV(プラグインハイブリッド)が同+68.6%だった。消費者は完全に新エネルギー車の方を向きだしている。清華大学の欧陽明高教授は、EVなどの新エネルギー車販売は、2023年に1000万台近くまで伸び、2030年には2000万台、2035年には2500万台と新車販売総数の8割を占めるだろうと言う(日経新聞3月23日付朝刊インタビュー)。
ポストゼロコロナの中国経済は回復基調にあるが、個々の分野を見るとそう単純ではない。GDPの約3割を占める不動産分野の落ち込みは大きく、回復には時間がかかるだろう。1-2月の固定資産投資は同+5.5%、この内インフラ投資は同+9.0%、製造業投資は同+8.1%だったが、不動産開発投資は同-5.7%と依然振るわない。最も深刻なのは雇用で、相変わらず失業率は高止まりだ。1-2月の失業率(都市)は5.6%、特に若年(16歳―24歳)失業率は18.1%と非常に高い。今年は1158万人が大学を卒業するが、大卒者の就職問題は、政府にとって頭の痛い問題である。「安定」を最重要課題に掲げる中国の党・政府指導部にとって一番怖いのは、就職難の若者の不満が爆発する事だ。雇用問題の解決策は1つしかない。それは経済を回復させ、発展させる事である。前述の経済評論家は、この雇用問題について、「短期的には深刻な問題だ。しかし中長期的には。経済の回復とともに解決されてゆくと思う。楽観はできないが、悲観する必要もない」と述べた。
内需の本格的回復にはもう少し時間がかかるだろうが、上向いてきている事は確実だ。それに比べ、外需はこれまで基本的に好調を保ってきたが、ここに来て暗雲が立ち込めてきた。
2022年の中国貿易は、ゼロコロナ下でも順調だった。貿易総額は6兆3096億ドルで、対前年比+4.4%、この内輸出は3兆5936億ドルで、同+7.0%、輸入は2兆7160億ドルで、同+1.1%。中国の貿易相手国・地域の順位はASEAN、EU、米国、韓国、日本だった。2021年は5位だった韓国が、4位だった日本を追い越した。特筆すべきは、対立がエスカレートしてきた米中貿易が減少せず、対前年比プラスをキープし、過去最高を更新したことだ。
2022年の米中貿易の内訳は以下の通り(ジェトロ調べ)。
中国→米国 5815億6471万ドル(対前年比+0.9%)
米国→中国 1776億5315万ドル(同 -1.0%)
総 額 7592億1786万ドル(同 +0.4%)
中国が米国に輸出しているものを見ると、額が多い順に電話機、ノートパソコンなどの自動データ処理機、玩具、自動車部品と付属品、照明器具と付属品で、6位に蓄電池が入っているが、対前年比+98.8%も伸びている。その中でもEVに不可欠なリチウム蓄電池が92.7%を占める。EVの普及を目指す米国にとって、中国から輸入するリチウム蓄電池は不可欠なのである。中国のリチウム電池輸出先は、1位が米国、2位がドイツ、3位が韓国である。考えてみたら、中国の必要としている半導体は、米国が出さないばかりか、友好国にも対中禁輸を呼び掛けている。一方で、米国の必要なリチウム電池は大量に中国から輸入する。これが自由でフェアな貿易と言えるだろうか。ただ米国の中国向け輸出の内訳をみると、意外なことがわかる。米国は半導体の中国への輸出を抑えているが、全く輸出していないわけではないのだ。半導体関連の集積回路(2022年の輸出総額122億ドル)、半導体・集積回路などの製造用機器(同54億ドル)は、ともに対前年比2割強減ってはいるが、輸出は継続している。ともあれ、どれだけ対立していようが、米中の経済的相互依存関係は分断できないということだ。
2023年に入り、中国の対欧米向けを中心に、輸出に陰りが見えてきた。1-2月は輸出が対前年同期比-6.8%、輸入も同-10.2%となった。輸出では、米国向けが約22%、EU向けが約12%ダウンした。一方でASEANへの輸出は同+9.0%と好調だ。
北京のコロナ感染はほぼ収まっているが、一部専門家の心配はコロナ感染の第2波だ。直近で言えば、感染爆発の第1波は2022年12月中旬から2023年1月にかけてだが、第2波が来ないとは限らない。ただ多くの専門家は、「ほぼ終息した」とみている。
第3期習近平体制はスタートしたが、難問は山積している。消費の掘り起こし、不動産市場の正常化、地方政府の債務問題、雇用、金融改革、少子高齢化対策など、どれも大変な問題である。とにかく先ずは経済の回復だ。3月に開かれた全人代で決まった2023年の目標成長率は「5%前後」、楽勝とは言えないまでも、余程の事がない限り非常に難しい数字ではない。2023年第1四半期は、まだゼロコロナ終了の恩恵は現れないだろうが、第2四半期からは上昇に転じると思われる。(2023年3月27日)(止)
出所:ジェトロ、中国海関総署、中国汽車(自動車)工業協会、日本経済新聞