No.21 転換期、正念場を迎える中国

 第11次5カ年計画は2006年に始まり、2010年で終了する。次の第12次5カ年計画は2011年から2015年までである。この第12次5カ年計画は、来年3月に開かれる予定の全国人民代表大会(全人代)で決定されるが、その骨組みは先般開催された中国共産党第17期中央委員会第5回総会(17期5中全会)で、「第12次国民経済社会発展5カ年計画策定に関する党中央の提案」という形で事実上決定された。来年3月の全人代の任務は、この「党の提案」を具体化することである。
 この「党の提案」は厖大なもので、詳しく紹介できないが、経済面で特に強調されているのは、①経済発展パターンの転換。②「三農」(農村、農業、農民)の抜本的改革である。
 さて、今年は中国のGDPが日本のGDPを抜くことは確実だ。第2四半期に次いで、第3四半期(7月―9月)のGDPも、中国は日本を上回った。ただ1月―9月のGDPを見ると、日本が3兆9674億ドル、中国が3兆9468億ドルで、わずかに日本が上回った。通年では確実に中国が日本を逆転し、成長率は10%に達する見込みだ。
 中国経済は依然好調だが、政府はそれほど楽観視していない。当面の問題では、1つには消費者物価が上昇、目標の3%以内をはるかに超え、4%台に突入したこと。インフレ懸念が増大した。2つ目は、ここのところ必死で不動産バブルを押さえようとさまざまな手を打ってきたが、不動産はなお上昇を続けていること。3つ目は、経済の成長に比べ、所得が大きく伸びないと国民の中に不満があることだ。
 不動産バブルに関して、政府は外国からの流入投機マネーに神経を尖らせている。中国商務部の発表によると、1月―10月の海外からの不動産に対する投資額は、前年同期に比べ48%増加した。米国などの金融緩和の影響があるようだ。中国がインフレ対策で金融引き締め(利上げ)をすれば、日米欧との金利差をさらに広げ、投機資金の流入を一段と加速させるというジレンマがある。外貨管理は厳しくなり、不動産や株投機も厳しく制限される可能性がある。
 国民所得の向上に関して、中国は来年思い切った手を打つという情報がある。「所得倍増計画」のようだが、人件費が大幅に上がれば、企業経営を圧迫することになる。外資系企業にはどのような影響が出るのかなど、中国に進出している企業は来年3月の全国人民代表大会(全人代)を注目する必要がある。
 以上は当面の問題だが、そのほかに政府が頭を悩ませているのは中長期的問題である。それはこれまでの「外需型成長」から「内需型成長」への転換だ。そのためには産業構造の大改革だけでなく、「三農」問題(農業、農村、農民)の抜本的改革が必要だ。農業の大規模化、農村の都市化、農民所得の大幅向上を図るという事は、中国全体の改造に通じる革命的出来事となる。工業面では、これまでの労働集約型産業から、高付加価値産業への転換を図る、輸出産業重視から国内市場を意識した産業創出などだが、ここにもジレンマが存在する。中国が外資導入と輸出振興に成功した結果、高度成長が実現し外貨保有高世界1となった。この構造を転換するということは、失敗すれば経済の失速を招きかねない。少なくとも、所得倍増は内需拡大に通じるが、それは安価な労働力がいなくなることを意味し、外資が中国に入るメリットが無くなること意味する。中国は外資の構造をも転換しようとしている。つまり、これまでのような外資は全てウエルカムではなく、高度技術の移転を伴う、中国で高付加価値製品を生産する外資を選別して導入ことだ。ただ短期的に全国で実現するのは無理だろう。内陸部の低成長地帯では、まだ労働集約型の産業が必要だ。要するに、すでに大きく発展した沿海ベルト地帯の都市とその周辺では、もう労働集約型産業は必要ないという決断をしたわけだ。このような状況の中、前述の「党の提案」で、これからの方向として「工業化、情報化、都市化、市場化、国際化」を挙げているのは意味深長である。
 第12次5カ年計画の5年間は、中国の発展にとって「カギとなる時期」(「党の提案」文)となるだろう。そのためには安定した国際情勢を望んでいるのは確実だ。日中関係については結局「対抗より協調」を選んだ。朝鮮半島の緊張はなんとしても緩和させたいのが本心だ。中国は転換期、正念場を迎えようとしている。