2013-05-10 「とんかつ新宿さぼてん」北京1号店がオープン

今年の3月,日本全国で459店舗を展開するとんかつ専門店「とんかつ新宿さぼてん」の中国第1号店が北京にオープンした。開店当初から日本人の間で話題になっていたので早速行ってきた。
北京の日本食レストランでとんかつをメニューの一つとして取り扱っているお店は数多くあり,おそらく中国人にとってとんかつは比較的受け入れやすい日本食の一つなのだろう。実際,日本食の中でとんかつ・かつ丼が好き,という中国人は結構いる。しかし,とんかつだけを専門に提供するお店はこれまで北京にはなかった。牛丼専門店「吉野家」やカレー専門店「COCO壱番屋」はすでに先行して中国に進出しており,多くの中国人から支持されている。とんかつ専門店が果たしてどれだけ中国人に受け入れられるものなのか興味があった。
土曜の夕飯時18時頃に店に到着したが,すでに店内は満席で店の前は順番待ちの客がいた。30分ほど待ってようやく店内に案内された。店の様子は日本の店舗に比べると高級感がある。「とんかつ新宿さぼてん」のイメージはテイクアウトもできる手軽なとんかつチェーン店という感じだったので意外だった。メニューを見るとロースかつ膳(中)が70元(約1,120円)もする。2011年北京市の労働者の平均賃金が4,672元(約75,000円)/月であることからすると,この価格は非常に高い設定といえる。日本の感覚でいえば2,000~3,000円といったところか。3,000円のとんかつ定食はかなり高級と言えるだろう。
日本の店と違う点はセットメニュー以外に串揚げや豚のしょうが焼き,サラダ,スイーツなど,単品メニューが充実していることだ。中国人は一般的に外食する際,単品をいろいろ注文してみんなで一緒に食べる習慣があり,そういった現地の嗜好・ニーズに対応したのだろう。
このように価格は決して安くなく,店の雰囲気もカジュアルというよりやや高級な感じで打ち出しているのだが,驚いたことに客のほとんどが中国人だった。そして,多くの客がセットメニューだけでなく,追加で単品をいろいろ注文している。とんかつと一緒にワインを注文している客もいた。北京ではビジネスや接待の場として日本料理店を利用する中国人をよく見かけるが,このようなとんかつだけの専門店に食事に来る客はビジネス・接待需要とは考えにくく,おそらく普通に食事をしに来ているのがほとんどだろう。客の平均単価は昼でだいたい80元(約1,280円),夜は90元(約1,440円)になるそうだ。
飲食業や小売業は非常にドメスティックな商売である。出店先の地域に溶け込み,その地域で暮らす消費者のニーズに細やかに応えることが重要となる。一方でビジネス全体はグローバル化が進んでおり,日本の多くの企業が自社のサービスを売り込みに中国に進出してきている。こうしたなか,日本が得意とする顧客視点のきめ細やかな日本式サービスを提供しながらも,いかに現地の習慣・嗜好に合わせた「現地化」を進められるかが成功の鍵となる。また一旦進出した後も,サービスの質を維持し続けるためには現地幹部やスタッフの育成もしなければならない。指導方法やスタッフとのコミュニケーション方法など,日本のやり方では通用しないこともあり,この面でも「現地化」が求められる。勢いよく進出したはいいが,現地化がうまく行かず出店後ほどなくして閉店・撤退する企業もあるようだ。
1ヶ月後,再び「さぼてん」にお昼を食べに行った。初めて行った時は日本人のマネージャーらしき人がいたのだが,今回は中国人スタッフが店内を取り仕切っていた。サービス・味,共に1ヶ月前と同じレベルが保たれていた。(笠原)

多くの客が順番待ちしている

多くの客が順番待ちしている

和風ひれかつ膳(中)80元(約1,280円)

和風ひれかつ膳(中)80元(約1,280円)