「おぉー」
「おぉー」
「こりゃ、スゲーわ」
スミマセン、心の声が漏れてしまいました。いや、あまりの驚きに実際に声を出していた気もします。今号では、キクスタッフが「体験型観光への志向の高まり」を、ハンスタッフが「キャッシュレス化」をご紹介しました。
私からは「ドライバーレス」な「初体験」、完全無人自動運転車両に乗ってきたという話です。
場所は、北京市内の亦庄(イーヂュァン)という経済技術開発区、広さは約60㎢で主にハイテク企業が集積するエリアです。道路はもちろん公道、ビジネスパーソンが行きかい、レストランがあったりもする約29万人の街です。面積は北京市の0.35%しかないにもかかわらず、北京市内の工業付加価値額の約30%を占めるというから驚きです。
その開発区にある「百度(バイドゥ、Baidu)」のApolloParkに視察に行ってきました。
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Baiduは、中国最大の検索エンジンを提供するインターネット企業で、「中国の Google」と言われています。2000年の創業以来、検索エンジンを基盤に成長し、現在はAI、自動運転技術、音声認識、クラウドコンピューティング等、その技術領域は多岐に渡っています。アメリカNASDAQ市場に上場しており、その企業価値は300億ドル以上、従業員数約40,000人のグローバル企業です。
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ApolloPark到着前、亦庄に入った途端、走行している完全無人自動運転のタクシー(以下、「ロボタクシー」と表現します)が目に飛び込んできました。
「おぉー」
ここで一回目の「おぉー」が出ます。ただ、ここで「おぉー」と言うのは私だけ。ロボタクシーがすっかり街に溶け込んでおり、行き交う人々にとっては日常の風景のようです。それもそのはず、亦庄では2020年10月にロボタクシーサービスApollo Goをスタート、2021年4月に商用運行許可を、2023年3月に完全自動運転の許可を取得、つまり段階を経ながら、商用サービスの提供に至っているのです。
ApolloPark 到着後、案内スタッフの方からこれまでの開発の歴史や自動運転技術の特徴について説明を受けました。きっと、世界中から視察があるのでしょう、案内はかなり体系立っています。かいつまんでご紹介すると、
・2013年に自動運転技術の研究開発をスタート
・高精度地図とAIを組み合わせて進化させている
・研究を重ね、現在の車両は6世代目
・第5世代までは一般車両を改造して自動運転車両
としていたが、最新の第6世代は車両メーカーと
協力し、初めから自動運転車両として設計
・そのため、安全性や耐久性が向上、かつコストダ
ウン、音声コントロールやマッサージ機能などス
マートで快適
・公道での試験は、2018年に中国で初のライセンスを取得、2020年に北京市で
試験開始、2021年に北京市で公道での商用運行許可を取得、2022年に重慶市
と武漢市において、中国で初めて公道で完全無人でのタクシーサービス提供
の許可を取得、試験開始
・2025年には、中国全土の主要都市で完全無人運転を開始
・最も大きい商業ロボタクシー運行エリアである武漢市では、約3,000㎢の広
さをカバーし900万人に対し、サービスを提供
・これまでの総走行距離が1億5,000万km以上、ロボタクシー累計乗車回数が
1,000万回以上
・2024年11月には、右ハンドル/左側通行の香港で初めて自動運転車の走行許可を取得(中国は左ハンドル/右側通行で日本と逆です)、グローバル展開を開始
・事故は(理論上)有人ドライバーの1/14の確率、1億5,000万km以上の走行
で重大事故はなし
腰が抜けそうに驚いたのは、
「すでに、商業運行を実施」
「すでに、1億5,000万km以上走行」
という、私の想像を大きく超えて先を行っていることです。
また、武漢市では、夜勤の女性が好んでロボタクシーを使っているというエピソードも、単にドライバー不足を解決するだけではない新しい価値を提供しているんだなと、印象に残りました。
さて、ワクワクとドキドキ(と、ちょっと心配な気持ち)が最高潮に高まってきたタイミングでいよいよ試乗です。
さすが、最新の第6世代は自動運転車両として設計されただけあって、ゴテゴテとデザインを邪魔するものは付いていません。ぱっと見、一般車両と違うのは屋根に付いたライダー(LiDAR※)ぐらいでしょうか。
後席右側に着座しました。マッサージ機能が付いた座席です。運転席には誰もいません。ハンドルには半透明のカバーが掛かっています。
いざ、発進です。「スーっ」と車両が動き出しました。
「おぉー」
静かなスタートですが、ドライバーがいない不思議な感じで思わず声が出ます。でもまだBaiduの敷地内、そこまでの緊張感はありません。
一番緊張したのは、やはり敷地内から公道へ出るところ。試乗を振り返るとこのタイミングが一番ドキドキしましたが、1億5,000万km以上の走行実績が私の心を支えます。
右折して(日本だと左折してのイメージです)公道に入りました。
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※LiDAR レーザー光を照射して、その反射光の情報をもとに対象物までの距離
や対象物の形などを計測
約15分の試乗時間でした。もちろん、右折あり、左折あり、信号待ちあり。横断歩道も無いのに歩行者が車両の前を横切る瞬間もありました。交通状況に応じて60㎞/h以上のスピードを出すこともありました。車線変更は結構積極的です。
発車した瞬間から、座席が私の背中を程よくマッサージしてくれます。音声コントロール機能がありますので、声で車両とインタラクティブに、具体的には「ニーハオ、ロボ」と声を掛けると次のような会話ができました。
「ニーハオ、ロボ! 日本の音楽をかけて」 → かけてくれます
「ニーハオ、ロボ! エアコンを少し涼しくして」 →少し涼しくしてくれます
「ニーハオ、ロボ! 右後ろの窓を開けて」 →開けてくれます
「ニーハオ、ロボ! 右後ろのドアを開けて」 →(走行中なので)開けてくれません
発車してから2、3分経った頃からでしょうか、すっかり安心しきって乗っている自分がいることに気が付きました。言葉では上手く表現が出来ないのですが、「乗っていて違和感がない」のです。自分の運転より安心できる気さえしてきます。このリラックス感は、座席が私の背中をモミモミしてくれているからだけではありません。自然な走行感、乗車感がもたらすものだと確信しました。
「こりゃ、スゲーわ」
思わず言葉が出ました。
試乗はもちろん無事に終了。
今回の試乗を通し、Baiduが新しい技術としっかりと向き合い、また、社会受容性を高めていくことにも真摯に取り組み、社会に実装していくことに「覚悟」をもって臨んでいる、そんな背景も感じることができました。
私は中国に来てまだ2か月と少しですが、渡航前の中国に対する認識は「世界の工場・中国」「大きなマーケット・中国」でした。しかし、ハンスタッフが記したようにデジタルサービスが広く浸透している状況や今回の試乗を通し「イノベーションが社会実装されている・中国」という認識が私の中で大きくなりました。
「ロボタクシーがもし新潟市に実装されたらどうなるだろうか」
「ロボタクシーと新潟市の課題(例えば人口減少を背景としたドライバー不足、観光の二次交通不足など)を掛け合わせたらどうなるだろうか」
もちろん技術がすべての課題を解決するとは言えませんが、ここ中国においてデジタルが実社会に溶け込み市民の利便性、社会の生産性を向上させていることを日々体感していると、課題先進国と言われている日本こそもっともっと早く社会実装していくことが重要ではないかとこれまで以上に思うようになりました。
中国で自動運転が街中で、しかも商用で行われていることに、正直、何とも言えないショックな気持ちもあります。この事実を謙虚な気持ちで直視し、微力ではありますが、今後も(今は)中国でしか体感できないイノベーションを見つけた際は、皆様にお届けしたいと思います。もちろん「百聞は一見にしかず」、皆様にも実際に「中国に来て、体感して、驚いて」いただき、未来を一緒に想像したいと思っています。
今回もお読みくださりありがとうございました。それでは、再見!(ザイジィェン!またお会いしましょう!)(生浦)