中国レポート  No.88 2022年01月

新しい年の幕開けだ。希望は持つべきだが、素直に「おめでとう」と言えないのが世界の現状だ。新型コロナは収束に向かっていると思われたが、昨年出現したオミクロン変異株が猛威を振るい、あっという間に世界に広がった。新型コロナ流行の初期、中国は独自の「ゼロコロナ」政策を採り、いち早く新型コロナを克服し、経済の復興を果たした。その時点で中国経済は「1人勝ち」の様相を呈した。ところが今状況は大きく変わって来ている。オミクロン株が中国にも侵入し、徐々に拡大している。昨年12月には、人口1300万を擁する西安市がロックダウンを実行した。1月に入り、河南省の省都である、人口1300万の鄭州市がロックダウンに入った。北京市の隣にある、人口1400万の天津市でも、準ロックダウン状態となり、北京―天津間の鉄道、高速道路が封鎖された。
中国政府、専門家にとって予想外だったのは、コロナワクチンを接種しても、オミクロン感染の拡大を止められなかった事だ。それまで、国民の接種率が80%を超えると、集団免疫が獲得でき、コロナ感染拡大リスクはほとんどなくなるとされていた。中国は2021年末の段階で、国民の接種率(2回)が80%を超えたが、オミクロン感染拡大を止められなかった。
北京では一部地域での臨時的封鎖はあるが、北京市全体は1月中旬現在平穏だと言う。ところが、今年の北京は特別なのである。国家の威信をかけて誘致した「北京冬季オリンピック・パラリンピック」が2月4日開幕する。これを成功させることは、習近平体制にとって至上命令なのである。3月には「全国人民代表大会」(全人代)が開かれる。これまた、下降気味の経済をどう立て直すかと言う点で、非常に重要な大会となる。また秋には第20回中国共産党全国代表大会(中共20大)が開かれる予定だ。この共産党大会には、習近平体制の命運がかかる。政府としては、どうしても北京の安全は確保しなければならない。恐らく秋の党大会が終わるまでは、「ゼロコロナ」政策は変えられないだろう。
北京市政府は、1月に冬季オリパラ関係者(選手、コーチ、役員、運営関係者)が一般市民と接触しないための隔離空間「クローズドループ」を設置した。全てのオリパラ関係者はここに入り、外部とのアクセス遮断を行わなければならない。このクローズループに入るためには、コロナワクチンの接種、北京到着後21日間の隔離が必要で、ループ内部の人員は毎日PCR検査を受け、マスクの常時着用が義務づけられる。
欧米では、最近コロナと共存する「ウイズコロナ」の考え方が主流となりつつあるが、中国ではあくまでコロナの完全制圧を目指す「ゼロコロナ」という考え方に立っている。言葉を変えると、前者はある程度の感染拡大を容認しても、経済活動の正常化を実現させる、後者はある程度の経済的損失を容認しても、コロナを封じ込めるという事だろう。どちらが正しいのか、今の段階で結論は出ないだろう。
この数年、中国経済は米中経済戦争と新型コロナという2つの面から圧力を受けてきた。初期の段階では、中国経済の阻害要因は主として米国の圧力だったが、今は「ゼロコロナ」が主要な要因となっている。2021年の四半期ごとの数字を見ても、確かに中国経済は減速気味だ。中国人民銀行は景気減速に対応するため、中期貸し出し制度(MLF)金利を引き下げた。マーケットにとっては予想外だったが、今後コロナの状況いかんでは、更なる利下げの可能性がある。
その中国経済だが、1月17日、中国国家統計局は、2021年の主要な経済指標を発表した。
2021年の経済指標を見ると、明るい面と暗い面にはっきり分かれる。幾つかの指標を見てみよう。先ずGDP実質成長率は、対前年比+8.1%だった。政府目標の「6%以上」は大きく超えたが、四半期ごとの成長率を見ると喜んではいられない。第1四半期は、対前年同期比で+18.3%、第2四半期は同+7.9%、第3四半期は同+4.9%、第4四半期は同+4.0%だった。通年の数字+8.1%は悪くないが、成長率は下降線を辿ってきている。
米国との経済戦争で、米中貿易や中国経済が大きな打撃を受けたという事は、数字を見る限りない。むしろ米中貿易は米国政府の意に反して増加しているし、中国の対米貿易黒字は増え続けている。中国国家統計局の発表では、2021年の対米輸出は、対前年比+27.5%で、対米貿易黒字は、対前年比+25%の3966億ドルで、過去最高を記録した。トランプ以来の、対中貿易赤字削減を目的とした、米国のさまざまな対中経済制裁がほぼ空振りだったことが分かる。因みに、2021年の、中国の貿易の内訳は、輸出総額3兆3640億ドル(対前年比+29.9%)、輸入総額2兆6875億ドル(同+30.1%)、総額は6兆0515億ドル(同+30.0%)で、貿易黒字は、過去最高の6765億ドルだった。これは緩やかな世界経済の回復による外需の伸びが主な原因だが、中国の供給力が、世界経済にとってどれだけ重要かが分かる。しかし、オミクロンの蔓延などによる世界経済の不透明さがあり、この好調が持続するかどうかは分からない。
もう1つの明るい材料は、消費動向のバロメーターと言われる新車販売が、4年ぶりにプラスに転じた事である。2021年の新車販売台数は、半導体不足などのマイナス要素があったが、対前年比+3.8%の2627万5000台だった。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車といった新エネルギー車(NEV)が大きな伸びを示した。EVは販売台数291万台で、対前年比2.6倍となった。NEV全体では352万1000台で、対前年比2.6倍、7年連続世界1であった。ただこの好調さが続くとは限らない。オミクロン蔓延で、ロックダウン、移動制限などが長期化すれば、さらに半導体不足が解消されなければ、前途は明るいとは言えない。因みに世界第2位の米国は1493万台(対前年比+3.2%)であった。
新車販売がプラスに転じたが、全体の消費が上向いているわけではない。2021年の消費者物価指数(CPI)上昇率は0.9%と、2009年以来12年ぶりの低水準であった。政府目標は「3%前後」であったが、遠く及ばなかった。主な原因は、「ゼロコロナ」政策の下で、厳しい行動制限が敷かれ、これに加え資源高による物価の上昇、所得上昇の足踏み、雇用の悪化も消費の回復を妨げた。卸売物価指数上昇率が、資源高などの要因で8.1%と、1995年(14.9%)以来の高水準だったのと対照的であった。その他の指標は次の通りである。
鉱工業生産は対前年比+9.6%、小売り売上高同+12.5%、固定資産投資同+4.9%、不動産開発投資同+4.4%。当面の中国経済の課題は、消費をいかに回復させるかである。立ちはだかるのは「ゼロコロナ」である。
欧米各国では、コロナと共存する「ウイズコロナ」政策が主流となっているが、今現在、中国では全く正反対の「ゼロコロナ」政策が採られている。この「ゼロコロナ」政策が、消費を圧迫し、経済回復の大きなブレーキとなっている。はたして「ゼロコロナ」は正しいのか、中国国内では議論が生まれている。3月に開催予定の全人代でも、恐らく議論になるであろう。但し、前述のように、少なくとも今秋に予定される中共20大までは、ゼロコロナ政策の変更はないと思われる。
以上はコロナ下、当面の問題だが、ここにきて「少子高齢化」が、中国に重くのしかかりだした。2021年の出生数は1062万人で、建国以来最低数となった。死亡数は1014万人で、人口増減は+48万人。2021年末の人口は14億1260万人。合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)は、ある学者の計算では1.1-1.2で、この数字は少子化が進む日本よりも低い。中国は1979年以来「1人っ子」政策を続けてきたが、少子高齢化の状況を見て、2016年に「2人っ子」政策に転換、更に2021年に「3人っ子」政策とした。ところが数字を見る限り、少子化解消の効果はほとんど上がっていない。ある友人の話では、特に都市部の場合、住宅問題や教育費の高騰などで、産みたくても産めない人が増えているという。一方で高齢化も進み、2021年末現在、65歳以上は人口の14.2%となり、「少子化」と「高齢化」がすごい勢いで、同時に進んでいることが分かった。このような事態が進めば、中国は近い将来必ず労働力と福祉財源の不足に見舞われるだろう。それは当然経済成長の大きなマイナス要因となる。
コロナ流行以前、中国のGDPは早ければ2028年、遅くとも2030年には米国に追いつき、追い越すだろうと言われて来た。ところがコロナや米中経済戦争で、中国のGDPが米国を追い越すのは、もう少し後だろうと言われている。日本経済研究センターは、中国がGDPで米国を追い越すのは2033年と予測する。同時に、中国の人口減、少子高齢化による労働力の不足で、経済成長は急減速し、2050年には米国が再逆転するだろうと予測している。
中国は建国100周年の2049年に、先進国の仲間入りを目指している。それを実現するためには、当面の課題と共に、どうしても「少子高齢化」問題を解決しなければならない。(2022年01月23日)(止)