No.54 中国レポート

中国経済は依然として「痛みを伴う構造改革期」にある。今年の第1四半期の成長率は+6.7%だった。3月に開かれた全人代(全国人民代表大会)では、主として経済が討議され、「13・5」(第13次5ヵ年計画)が正式にスタートした。問題は山積だが、「減速」面だけ見ていると、中国経済の真の姿を見失う。着々と手を打っている面もしっかり見ておく必要がある。この構造改革期は2020年頃まで続くだろう。
さて、人々の第1の関心事は依然として経済だが、中国はこれから徐々に政治の季節に入る。来年秋、中国共産党第19回大会が開かれ、最高指導部の人事が行われる。少し早すぎる感はあるが、政治好きの北京っ子は、来年開催されるこの19回大会の人事について議論を始めている。憲法に中国共産党はすべてを指導するとあるわけだから、どのような指導部が発足するかは、国民、市民にとって重要な意味がある。もちろん興味本位の議論も多いが。
中国には世代別に「第1世代指導者」、「第2世代指導者」などという名称がついている。世代別の代表的な指導者は以下の通りである。
第1世代指導者―毛沢東、周恩来、劉少奇、朱徳
第2世代指導者―鄧小平※、華国鋒、胡耀邦、趙紫陽
第3世代指導者―江沢民、朱鎔基、李鵬、喬石
第4世代指導者―胡錦濤、温家宝、呉邦国、曽慶紅、周永康※、薄熙来※
第5世代指導者―習近平、李克強、兪正声、王岐山
以上の指導者のうち、鄧小平は第1世代とも言えるが、ほとんどの第1世代指導者が世を去る中で生き残り、第2世代指導者の時代に「無冠の帝王」として中国政界に君臨し、中国が「改革・開放」に舵を切る上で大きな役割を果たした。この鄧小平のやり方に倣ったのが江沢民で、最高指導部に自分の子飼いを送り込み、胡錦濤体制下で「影の実力者」として権勢を振るったと言われている。第4世代の指導者の内、トップ9の中にいた周永康は引退後「反腐敗闘争」の中で逮捕された。また第5世代の権力の中心に就くと見られていた薄熙来は、習近平との権力闘争に敗れ失脚した。
第4世代の最高指導部は「トップ9」と呼ばれた9人で構成されていたが、第5世代になり「トップ7」に変わった。胡錦濤は自身が江沢民の「院政」で苦労した教訓を生かし、一切の職務から身を引き、全ての権力を習・李体制に譲り渡した。来年の党大会でも7人による最高指導部構成は変わらないだろう。中国共産党の党員数は約8800万人、トップ7に入るのは至難の業であり、だからこそ信じられないくらいの権力を手に入れることができるのである。
来年の19回党大会の人事では、内規通りに進めば、年齢制限で7人のうち5人が引退することになる。残るのは習近平と李克強2人だけだ。党には「7上8下」(党大会の時点で67歳以下は最高指導部に残ることができ、68歳以上は引退する)の内規があり、習近平、李克強以外はこの内規に触れるからだ。
現在のトップ7の年齢は以下の通り。
習近平  1953年  62歳
李克強  1955年  61歳
張徳江  1946年  70歳
兪正声  1945年  71歳
劉雲山  1947年  69歳
王岐山  1948年  68歳
張高麗  1946年  70歳
引退する5人に代わり最高指導部入りするのは「第6世代指導者」と呼ばれる人たちだ。事実はそう単純でないが、習近平は「太子党」(高級幹部の子弟グループ)に属し、李克強は「団派」(中国共産主義青年団幹部出身グループ)に属している。江沢民時代は「上海閥」が幅を利かしたが、すでに昔の面影はない。ひと昔前なら、「太子党」と「団派」が人事を巡って激しく争うところだが、時代は変わった。すでにカリスマの時代が終わり、国民抜きで権力闘争を展開する時代でもない。さらに時代は政治的安定を必要とし、特に今は経済の構造改革に集中しなければならない。「太子党」と「団派」はうまくバランスをとって、経済運営に当たるとともに、国際社会における中国の存在感を高めるという面でコンセンサスがある。とは言え、一種の綱引きが行われるのは避け難い。また、今の若手指導者は高い能力(行政能力、経済運営能力)を有し、大きな成果を挙げることが最高指導部に入る条件であり、身辺がきれいなことも必要で、ハードルは高くなっている。
そこで、北京っ子の噂、議論から、どのような人物が「第6世代の指導者」として話題に上っているか、具体的に名前を上げてみる。これから様々な綱引き、駆け引きがあり、また能力や成果を比較検討し、最終的には来年の「北戴河会議」(渤海湾に面したリゾート地で、毎年夏休みに多くの最高幹部が避暑に訪れ、非公式な会議、意見交換が行われる)で人事が固まるだろう。
ところが、ある友人から面白い話を聞いた。それは「習近平は、反腐敗闘争で王岐山に頼り、高く評価しているので、彼を最高指導部に残したい」というのだ。王岐山は現在党のトップ7のナンバー6だが、泣く子も黙る腐敗撲滅の総司令部とも言える「党中央規律検査委員会書記」(当委員会ナンバー1)だ。1948年7月生まれだから、来年の党大会の時点では69歳、党の内規では当然引退しなければならない。来年の党大会でも王岐山は最高指導部に残るかもしれないと言う友人の根拠は、昨年に発表された「2014年―2018年全国党政指導グループ建設規格綱要」。これはほとんど日本には紹介されていないが、読んでみると確かに微妙なニュアンスの文面がある。その部分は次のように述べている。「指導グループは年齢構成については、老年、中年、青年という各世代を登用し、単に年齢での線引きはすべきではない」。
これは従来の定年内規を否定するものとも読み取れる。実際には王岐山だけ残せば、相当反発があるだろうから、そうはならないだろう。
第6世代の指導者は、年齢的には50歳代が中心である。このうちの有力幹部、それに来年の党大会時点で67歳以下の有力幹部を加え、トップ7の候補者群が構成される。中国共産党は中央委員205人、その中から選ばれた中央政治局委員25人、中央政治局常務委員7人をもって最高指導部とする。まずトップ7の最短距離にいるのは、中央政治局委員の中の定年制に引っかからない人たちだ。この条件に合った人物は12人(習近平、李克強を除く)いる。
姓 名   生  年   主 な 役 職
王滬寧   1955   党中央政策研究室主任
劉奇葆   1953   党中央書記処書記、党中央宣伝部長
許其亮   1950   党中央軍事委員会副主席
孫春蘭   1950   党中央統一戦線部長
孫政才   1963   重慶市党委員会書記
李源潮   1950   国家副主席
汪 洋   1955   国務院副総理
張春賢   1953   新疆ウイグル自治区党委員会書記
趙楽際   1957   党中央書記処書記
胡春華   1963   広東省党委員会書記
栗戦書   1950   党中央書記処書記、党中央弁公庁主任
韓 正   1954   上海市党委員会書記
らに中央政治局委員ではなく平の中央委員だが、注目されている人物が3人いる。
周 強   1960   最高法院院長
陸 昊   1967   黒竜江省省長
徐紹史   1951   国務院国家発展・改革委員会主任
以上の中から、来年の19回党大会で新たな顔がトップ7に入るだろう。すでに習近平と李克強の留任は確実だから、椅子は5つしかない。これから1年半余りの中で、さまざまな勢力間で虚々実々の駆け引きが行われ、さらにそれだけでなく、各人がそれぞれの分野でどのような成果を挙げたかが問われ、来年8月頃メンバーが内定する。最終的には来年の10月頃に予定される党大会で中央委員のメンバーが決まり、引き続き開催される第1回中央委員総会でトップ7が確定する。
そこで、まだ予測は早いのだが、さまざまな人の話を総合し、有力と思われる人物を上げてみる。
李源潮  実力者だが、年齢的に難あり
胡春華  次世代のホープの1人
孫政才  次世代のホープの1人
王滬寧  理論構築の中心人物で、習近平の信頼も厚い
汪 洋  経済のプロで、李克強の片腕
趙楽際  党中央書記処書記として習近平を支える
劉奇葆  党の宣伝工作の責任者
栗戦書  習近平の側近、事実上の政治秘書
韓 正  中国第一の都市上海のNO1
中国共産党の規定では、最高指導部のメンバーは1期5年で、2期しかできないことになっている。来年の19回党大会でトップ7に入ったメンバーの中で、習近平と李克強は次の5年(2022年)で引退しなければならないが、新たに加わった5人は、死亡するか失脚しない限り2027年まで務めることができる。つまり、2022年の党大会では、この5人の中から党総書記と国務院総理が習近平、李克強に代わって誕生するわけだ。今後の中国の政局から目が離せない。(止)
西園寺一晃 2016年5月25日