No.13 経済は上向き傾向が顕著、しかし不安材料も

各国が依然として世界同時不況に悩んでいる中、中国では経済の風向きが明らかに変わってきた。国家統計局の発表によると、第2四半期(4月―6月)のGDP実質成長率は、前年同期比7・9%だった。第1四半期(1月―3月)が同6.1%だったので、大幅な回復と言える。上半期(1-6月)計算だと7.1%になる。
6月単月の工業生産は前年同期比10.7%増で、昨年9月以来9ヶ月ぶりに2ケタ成長となった。世界金融危機のあおりを受け、急速に落ち込んだ今年1-2月が3.8%増だったのに比べれば、急速な上昇だ。この工業生産を押し上げた要因は、在庫調整の成功と政府の景気刺激策の実施による需要の回復だ。在庫調整が進み、在庫がほぼ一掃された時、内需拡大の刺激策が実施されたので、製造業を中心に生産が一気に活気づいた。具体的には政府の4兆元(約55兆円)投資がじわじわと効いてきた。鉄道、道路、空港などのインフラ整備などの公共投資に巨額の資金が投入された。1-6月のインフラ投資は対前年同期比57.4%増、特に鉄道関係は2倍以上の増加だ。関連産業は競って設備投資を始めた。特にセメント、鉄鋼、建設機械などは、すでに加熱状態になっている。例えば、セメント業界だが、1-5月の設備投資額は前年同期比8割増の520億元(約7100億円)で、年産能力は17億トンになった。鉄鋼も09年末の生産能力は6億6000万トンになる見通しだ。土木工事が至る所で始まっているが、中国に進出している日本の建機リース会社などは、フル回転でも間に合わない状況だという。1-6月の都市部の固定資産投資(設備投資や建設投資の合計)は前年同期比33.6%増と膨らんだ。ちなみに08年通年は26.1%増だった。
「家電下郷」(農民が家電を購入する場合、政府が1割強の補助を行うという、内陸部内需拡大策)政策も功を奏している。テレビ、冷蔵庫、洗濯機などは都市部における飽和状態で、四苦八苦していたが、農村の需要増大で息を吹き返した。冷蔵庫の1-5月の販売台数は、前年同期比2割以上増えたという。
自動車販売台数の急上昇も、景気回復に大きく貢献している。ここ数年、自動車は新しい消費分野として急成長してきたが、この分野は世界同時不況の影響をあまり受けていない。中国の自動車販売台数は、09年1月に初めて単月で米国を上回って以来、毎月世界1を維持している。6月の販売台数は対前年同期比36.5%増の114万2100台、4ヶ月連続月次ベースで100万台を超えた。上半期(1-6月)の販売台数は609万8800台で、対前年同期比17.7%増だった。なお米国は同480万台、日本は218万台。中国自動車工業協会は09の販売台数を1100万台と予測している。この自動車販売の急伸は、中国がモータリゼーションの時代に入ったことともに、今回の政府による景気刺激策がさらに購買意欲を刺激したと言える。政府は09年1月から、排気量1600cc以下の新車取得税を5%に半減した。また3月からは、家電に次いで「汽車下郷」(農民が小型車を購入する場合、補助金を支給するなどの内陸部内需拡大策)。この自動車販売の好調は、外資にも大きな利益をもたらしている。09年上半期の実績は、日産系の「東風日産」(広東)が前年同期比41%増、ホンダ系の「広汽本田」(広東)は6月の販売台数を対前年同月比79%増加させた。再建中のGMも中国では好調で、上半期38%伸ばした。韓国現代も上半期56%増となった。
以上は光の部分で、中国経済の復調は内部に不安要素を孕んでいることも事実だ。

①これまで中国の高度成長を支えてきた輸出は、依然として厳しい状況にある。今年上半期の輸出は、前年同期比21.8%減で、回復の兆しはない。これは上半期ベースの減少率としては、改革・開放政策が始まって以来最大の落ち込みだ。欧米や日本の経済が回復しない限り、この状況は打開できない。

②失業率は上昇した。経済の回復傾向はまだ雇用にまで及んでいない。09年1-6月の都市部における、政府発表の登録失業率は4.3%と、08年末を0.1%上回った。特に大卒の3割は就職できないという厳しい状況だ。さらに農民工(出稼ぎ農民)切りの問題もあり、実質失業率は10%近いという学者もいる。これは治安悪化にもつながりかねない。

③一部でバブルの懸念がある。中国は08年9月、経済過熱対策としての金融引き締め政策を、経済刺激対策としての金融緩和政策に180度転換させた。09年1-6月の人民元融資の増加額は7兆3700億元で、すでに年間目標の5兆元をはるかに上回り、08年通年の1.5倍になっている。そのうちの一部は不動産や株投機に流れ込んでいると言われる。その結果、不動産バブル、株式バブルが起きつつあり、将来のインフレ懸念を孕んでいる。中国政府はこの現象に警戒感を抱き、7月末、金融機関に対し固定資産投資向け融資の厳格化を求める新規則を公表した。

④個人消費は堅調とも言えるが、本格的な向上には至っていない。特に積極的な固定資産投資に比べると、消費の伸びは鈍いと言える。09年1-6月の小売売上高は、前年同期比15.0%増加したが、08年の21.6%の水準には程遠い。さらに大きな不安材料は、消費者物価指数(CPI)が5ヶ月連続でマイナスとなっていることだ。09年6月のCPIは、前年同月比1.7%下落した。6月の卸売物価も同7.8%下落し、7ヶ月連続のマイナスとなった。ここにデフレ懸念が潜む。

⑤09年1-6月のGDP成長率7.1%のうち、政府のインフラ整備を中心とした巨額公共投資の貢献率は6%以上だ。内需が掘り起こされ、経済が本格的な回復基調に乗るのが遅れると、政府の対策が息切れする懸念がある。その意味では、本当の勝負は下半期であろう。

さまざまな問題を抱えてはいるが、世界に先んじて経済が上向いてきたのは事実だ。さらにこの間、中国の外貨準備は増え続けた、09年6月末の準備高は、前年同期比17.8%増の2兆1316億ドルとなった。実に第2位の日本の2倍強だ。この外貨準備高の増加と連動して、中国の米国債保有残高も再び増加し、09年5月末の保有残高は8015億ドルに達した。ここのところ、中国はドルに偏った外貨準備運用の多様化を図ってきたが、再び積極購入に動いたのは、政治的意図があるのかもしれない。5月末からのガイトナー米財務長官の訪中に合わせたという見方もある。
先般行われた米中戦略・経済対話の開幕式で、オバマ大統領は「米中で21世紀を形づくる」と述べた。いよいよ米中「G2」時代の幕開けか。このような大きな世界の流れの中で、日本はどういうポジションをとるのか、どのような世界戦略を打ち立てるのか。衆院選挙の激しい戦いの中でも、このような議論がほとんど無いと、非常に物足りなく感じるのは私だけであろうか。