No.14 党17期4中全会、内需動向、日本の政権交代

中国ではこの1,2ヶ月の間にいろいろなことがあった。そのうちの幾つかを取り上げてみることにする。
先ずは、中国共産党第17期大会第4回中央委員会総会(17期4中全会)が9月15日―18日に北京で開かれたこと。今回の会議で注目されたのは2つの問題だ。1つは人事、もう1つは「党内民主」である。人事は、あと任期が3年余となった胡錦濤総書記の後継者問題であった。当時党中央政治局常務委員だった胡錦濤は、99年の15期4中全会で党中央軍事委員会副主席(当時の主席は江沢民総書記)に選出され、後継者の地位を強固なものにしたという経緯がある。「党が鉄砲を指揮する」というのが、中国式シビリアン・コントロールであり、これは一貫して守られている。つまり党のトップが軍の指揮権を握るということだ。07年の党大会では、ポスト胡錦濤候補が2人、最高指導部である党中央政治局常務委員会入りをした。習近平と李克強だ。習近平は江沢民前総書記らの後押しがあり、李克強は胡錦濤の強い推薦があったとされる。その後の状況は、習近平が国家副主席(主席は胡錦濤)となり、副総理となった李克強(総理は温家宝)を後継者レースで一歩リードした。今大会で習近平が党中央軍事委員会副主席(主席は胡錦濤)となれば、ポスト胡錦濤は決まりだった。ところが、今大会で軍事委員会副主席人事はなかった。政治好きの北京っ子の間では、さまざまな憶測が流れている。その1つは、江沢民の神通力が無くなったという見方。そうであれば習近平にとって不利であり、李克強が逆転する可能性が出てきたということだ。もう1つは、胡錦濤ら現最高指導部は冷静で、どちらを後継者にするかはまだ観察中で、結論を出していないという見方。いずれにせよ、2人とも大きな失敗をしない限り、1人が総書記という党のトップとなり、1人が国務院総理として行政のトップになることは間違いない。もちろん党のトップは名実共に中国のトップである。
党内民主問題についてはなかなか複雑だ。中国の改革・開放は、政治改革(民主化)を棚上げして、経済改革に集中した。先ずは経済の早急な底上げが先決というのが、改革・開放の推進者鄧小平の持論だった。その結果、経済は大成長を遂げたが、政治改革は残ったままだ。さらに、民主化の課題が残ったままという状況の中、党や政府幹部の腐敗問題が深刻化した。今や国民最大の不満はこの腐敗問題である。絶対的政治権力と市場経済がドッキングした時、そしてチェック機能が不十分という状況の中では、巨大な腐敗が生まれるのは必至だ。この問題を解決、緩和させないと、共産党の指導基盤が危うくなるとの危機感が胡錦濤指導部にある。それには先ず党が変わらなければならないというのが、党指導部の考え方である。選挙の公平性、人事の透明性、腐敗に対する罰則規定の厳格化が不可欠だ。今大会では、党内民主、腐敗撲滅論議に多くの時間が割かれたが、問題は具体的にどう実行するかである。中国の国民は期待を持ちながらも、楽観はしていないようだ。
さて、中国はこの10月1日に建国60周年を迎える。60歳といえば還暦、人間も相当成熟しなければならない。ところが中国は、この60年の前半は政治闘争に明け暮れた。冷戦下西側諸国の経済、軍事封鎖も重なり、経済はかなり立ち遅れてしまった。この状況を大転換させたのは鄧小平だった。1970年代末のことである。鄧小平は中国を革命から建設へ、政治から経済へ、イデオロギーから生活向上へと導いた。そのために、国内政治の安定、周辺地域の安定という「2つの安定」環境を作り上げた。そして後半の30年、中国は高度成長の時代に入るのである。
世界同時金融危機の最中、中国は大きな成果を以って建国60周年を迎えるために、さまざまな手を打ってきたが、確かにその成果は現れている。09年第1四半期のGDP成長率は6.1%にまで落ち込んだが、第2四半期で7.9%まで盛り返し、上半期の成長率は7.1%になった。内訳は、消費による成長が3.8%、資本投資による成長が6.2%、輸出によるものはマイナス2.9%だった。通年の目標8%にはまだ届かないが、ここに来て経済状況は確実に上昇に転じている。特徴的なのは、これまで立ち遅れていた内陸部が元気だということだ。全国の上半期成長率は7.1%だが、地方の15省は成長率が10%を超えた。
消費促進のための政策的要素が大きいが、賃金の伸びは金融危機で止まっていない。国家統計局によると、09年上半期の全国都市部事業所の在職職員、労働者の平均賃金は対前年同期比12.9%増の1万4638元、全国都市住民1人当たりの可処分所得は、前年同期比9.8%増の8856元だった。一方農村も着実に伸びている。09年上半期、農民の現金収入は8.1%伸び、2733元であった。内訳は農民1人当たりの給与所得8.4%増、家族経営所得5.5%増、資産所得9.9%増だった。農民の消費支出も10%伸びた。
消費関連で驚くのは、観光・レジャーの驚異的伸びで、09年上半期に国内観光をした人は延べ10億人に達した。一方で海外からの観光客は、金融危機の影響で8%ダウンした。つまり、輸出や海外からの観光客誘致という外需が減る中、内需が健闘している。これは今の段階では政策的要素が大きく、問題は本当に定着するかどうかだ。都市部を中心とした自動車販売、農村部における家電販売の好調さをみると、内需掘り起しがかなり成功しているように思われる。
北京の街を歩いていても、金融危機はほとんど実感できない。デパート、商店、レストランなどは客でいっぱいだし、活気があり、暗いムードは感じられない。友人に聞くと、10人のうち9人は、今年のGDP成長率8%は問題ないと言う。しかし、ある経済学者は、内需は緊急財政出動などである程度掘り起こせるだろうが、今の中国経済の構造からすると問題は輸出で、昨年から対前年同月比マイナス20%前後の状況は依然として続いている、これは中国自身ではどうすることも出来ず、日米欧の景気回復を待つしかない、輸出が回復した時、はじめて中国経済は本格的回復すると言っていた。
最期に日本における政権交代の反応だ。正直、中国は今景気回復、前述の党会議、建国60周年、来年の上海万博など話題には事欠かず、一般の人たちの日本の政変に対する関心は薄い。しかし、大学生や知識人、研究者、政治家など、特に対日関係者は強い関心を持っている。彼らの反応を一言で言えば、民主党政権の登場は「期待半分、心配半分」という事か。安倍首相の電撃的訪中で、小泉首相時代の「政冷経熱」局面は打開され、福田首相時代に政治関係が正常化した。麻生首相時代には正常化が定着した。この間、両国は「戦略的互恵」関係の樹立を約束したが、中国の対日関係者は「中身を具体化し、充実させる作業はほとんどなされていない」と言う。そこで民主党に対する期待は、「戦略的互恵関係の中身を具体化、充実させること」だ。
対日関係者の間には、民主党政権出現に心配要素もあると言う人が多い。それは、自民党政権に比べリベラルな民主党政権は、中国に対し人権、民主化、チベットなどの問題で、「内政に踏み込んでくるのではないか」と言う懸念だ。国連総会出席のため訪米した鳩山首相は、9月22日胡錦濤主席と会談した。友好的雰囲気の中で、率直な対話がなされたと、中国メディアの評価は上々だ。さて、これから日中関係、日中米関係はどうなるのか。楽しみでもあり、心配でもある。