ここ数回にわたり、世界同時金融危機と中国経済についてレポートした。09年に入った当初、中国政府の「保8」(8%成長死守)の決意は固かったが、学者の間では中国経済がいつ立ち直れるかについて議論が分かれていた。楽観論は、09年の第1四半期が底で、第2四半期で上昇の要因が膨らみ、第3四半期で上昇に転じ、第4四半期では相当回復する。そして通年で8%成長を実現するだろうというものであった。一方悲観論も少なからず存在した。それは、中国の成長が大きく輸出振興と外資導入に依存した「外需型」である以上、中国単独での回復はあり得ず、米国、EU、日本など、主要貿易相手国の回復を待たねばならないというものだ。具体的には、先進国経済の回復には3年くらいの時間がかかり、中国経済も少なくとも09年は「我慢の年」で、回復基調になるのは、早くて来年後半くらいになり、本格的に再上昇するのは2-3年後になるというもので、09年の8%成長は難しいという見方だ。
確かに09年第1四半期の成長率は厳しい数字となった。08年の第4四半期の6.8%から更に落ち込み、6.1%というものだった。これまで成長を引っ張ってきた輸出の落ち込みは深刻で、対前年同月比で1月17.5%減、2月25.7%減、3月17.1%減、4月22.6%減だった。
しかしここに来て、多くの経済学者は楽観論に大きく傾いてきた。中央政府と地方政府による大型の内需振興策がジワリと浸透、効力を発揮し始めた。その状況から学者の多くは、中国経済の立ち直りは意外に早いと考え始めたのである。今では8%成長確保は出来るだろうという意見が主流になっている。
確かに中国経済には立ち直りの兆候が現れている。農業は相変わらず好調だし、工業生産も7%台の成長に乗り、引き続き上向いている。新たな消費分野を引っ張る車の販売は好調で、1月には米国を抜いて世界1に躍り出た。2月以降も低迷する米国との差を広げている。農村での需要掘り起こしに成功すれば、自動車、家電をはじめ、通信機器、服飾、日用品雑貨などの生産が大きく伸びる可能性がある。主要港湾の荷動きも活発化してきた。輸出は依然として厳しい状況が続くだろうが、内需がそれを十分カバーできる状況が生まれる可能性は十分ある。
09年の8%成長は果たして可能なのか。第2四半期の数字が出れば、答えが見えてくるだろう。その意味で、第2四半期の数字を大いに注目すべきだ。
さて話は変わるが、最近文化界で注目すべき出来事があった。4月22日から中国全土で封切られた、陸川監督の話題作「南京!南京!」をめぐり、激しい論争が巻き起こっている。陸川監督は38歳、映画界における若手のホープである。もちろん戦争の体験はない。この映画は制作費8000万元という大作だ。1ヶ月もたたないうちに、すでに1億6000万元の売り上げを記録したという。監督自身「予想もしなかった入り」と言う。
映画の内容は、旧日本軍による南京侵攻と虐殺を題材に、それにかかわるさまざまな人たちの人間模様、心の葛藤を描いたものだ。南京虐殺を描いた映画は、過去相当数生まれたが、この映画は今までのものと全く違う。これまでのものは、一様に悪逆非道の日本軍、虐殺される民衆、日本軍に英雄的に抵抗する共産党指導下のゲリラというものであった。ところがこの映画は、戦争の悲惨さ、狂気を描き、その過程で戦争の理不尽さに疑問を持ち、虐殺命令に迷い、反感を持つ日本兵「角川」が準主役として登場することだ。この良心を持った日本兵は迷い、悩み、反抗し、最期には中国の子供を助け自殺する。
この映画は大きな反響を巻き起こした。先ずはネット上で猛烈な非難が現れた。陸川監督を「親日派」、「売国奴」と罵り、「日本を美化するな」、はては「お前を殺してやる」という過激なものまで現れた。メディアの評価もまちまちだ。「中国青年報」はコラムで「芸術観は一流、歴史観は三流」とこき下ろした。
評価する人たちも少なくない。ある人は「日本兵の中にも、人間としての良心を持った人がいたはずだ。その日本兵の良心の葛藤を描くのは当然」と言い、ある人は「あの戦争を感情論だけで考えるべきではない」と言う。
興味深いのは、中国政府の態度だ。中国政府は建国60周年にあたる09年の「重点推薦映画10選」の一つに、この映画を選んだ。
この映画をめぐる賛否両論は、ある意味で中国の改革・開放が経済分野だけでなく、文化の分野でも相当進み、拡大していることを意味する。
陸川監督は、日本での上映を望んでいるという。さて、日本人にこの映画を見て、あの時代の歴史を知り、そしてこの映画について自由に議論を展開する勇気があるだろうか。