やはり新型コロナ克服と経済の回復は直結している。他国に先駆けて中国経済の回復が着々と進んでいる。北京では、まだ新型コロナに警戒感は残っているが、日常生活はほぼ正常化している。ついこの間まで外出時のマスクは絶対だったが、今はある程度緩やかになった。公共交通、映画館や劇場、病院、銀行などでは、マスクが義務化されている。広場や公園など、比較的閑散としている場所や、人の少ない、通風のしっかりしているところは、マスクが義務化されていない。学校では、教室内はマスク着用だが、室外では基本的に自由だ。企業では、「状況に応じ、各企業で決める」という事になっているようだ。はじめは、マスクを掛けるのに違和感を持っていた人も、今では慣れてしまい、むしろ掛けるのが常態化している。街を歩いても、平均すると掛けていない人は10%に満たない感じだ。と、これは北京の友人に取材した話だ。筆者は新型コロナの関係で、もう1年以上北京に行けないでいる。それまでは年に4-6回行っていた。今は微信(WECHAT)を駆使して、情報集めをしている。
日中関係については、政府関係者や学者・研究者の「日米首脳会談」に対する関心は非常に高いが、一般市民はほとんど関心がない。報道は控えめだ。日米首脳会談では「中国封じ込め」がとり上げられ、共同声明で日本がデリケートな「台湾」問題に直接コミットした。中国メディアがこの事を「抗議調」に報道すれば、反日感情が高まったかもしれない。日本の経済界、特に北京等に進出している日本企業は緊張していた。だが中国政府は、内心はともあれ非常に抑制的だ。順調な日中経済関係を壊したくないのだろう。しかし、ある国際問題研究者は、「日中関係は爆弾を抱えてしまった」と言う。彼の話では、中国にとって「台湾」は半歩も妥協できない問題であり、もし米国の後押しで台湾が「独立」の方向に進めば、中国は武力介入せざるを得ないと言う。そうなればいわゆる「台湾有事」だ。彼は、その場合も大国間で「大規模戦争」は起きないと言う。現代の大国間全面戦争は核戦争だからだ。そんな事になれば人類は破滅である。しかし、台湾海峡という「局地的」な武力衝突はあり得ると言った。局地的、限定的であろうと米中が衝突すれば、「日本はどのような選択をするのか」と彼は問うた。そんな恐ろしい事は考えたくもないが、問題は「日米安保条約の集団的自衛権」行使を認めた日本は、「米国の要請があれば」武力介入せざるを得ないのかという問題がある。万一そうなれば、日中は戦争状態に入る。まあ、万に一つもそのような事態は起きないであろうが、潜在的にはそのような問題が存在するのは事実だ。それが彼の言う「爆弾」なのだ。
さて、今中国政府は内需掘り起こしに躍起だが、これまでの「稼ぎ頭」だった貿易(輸出)は依然として経済回復と成長をけん引するエンジンである。その貿易だが、今年の第1四半期は、新型コロナの反動もあり、大きく伸びた。
中国税関総署が4月13日に発表した数字によると、第1四半期の貿易総額は8兆4700億元で、対前年比+29.2%、内輸出は4兆6100億元で、 同+38.7%、輸入は3兆8600億元で、同+19.3%だった。輸出では、電気機械製品が2兆7800億元で、対前年同期比+43%で、輸出総額の60%を占めた。マスクを含む織物、ワクチンなどの防疫用品は同+31%。テレワーク需要で、パソコンは同+66%。伝統的な、労働集約型工業製品の家具、玩具、雑貨などは同1.7倍、衣類も同1.5倍だった。輸出入で健闘したのは民間企業で、第1四半期の総額は3兆9500億元になり、対前年同期比+42.7%、輸出入総額の46.7%を占めた。
総額から見ると、貿易構造が少し変わってきている。これまでの貿易相手順位はEU、米国、ASEAN、香港、日本の順だったが、今年の第1四半期だけ見ると、ASEANが首位になった。
1位:ASEAN 1兆2400億元 対前年同期比 +26.1%
2位:E U 1兆1900億元 同 +36.4%
3位:米 国 1兆0800億元 同 +61.3%
4位:日 本 5614億元 同 +20.8%
(1元は約16.4円)
この数字で目を引くのは、経済戦争を戦っている米中間の貿易が大きく伸びている事である。特に中国の対米輸出は同+75%で、貿易黒字は726億ドルと、全体の貿易黒字の62%に達した。自由経済はマーケットの需給関係で動くものだ。米中間の需給がそれだけ大きいという事であろう。これを政府が人為的に崩すことは出来ない。なお、国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、2020年の世界の輸出総額における主要国のシェアは、1位中国で14.7%、2位米国で8.1%、3位ドイツで7.8%だった。すでに中国は貿易大国、輸出大国であり、内需型成長を目指すとは言え、貿易、特に輸出を軽視するわけにはゆかない。依然として成長のエンジンであることに変わりはない。これに内需拡大が加われば「鬼に金棒」である。ただ、GDPにおける輸出の割合が大きい程、経済の不安定性は増すわけだから、米国のようにGDPの7割が内需の国は、世界経済の変動に影響を受ける事が相対的に少ないのである。そこに気づいたからこそ、中国政府は成長を「外需型から内需型へ」と強調しているわけだ。
因みに第1四半期における「一帯一路」沿線国との貿易は2兆5000億元で、同+21.4%。RCEP締結国との貿易は2兆6700億元で、同+22.9%だった。
GDP成長率は、米中で大幅に改善している。第1四半期は、米国が対前年同期比で+6.4%、中国は同+18.3%だった。数字で見る限り、米中の回復が早い。特に中国の回復は抜きんでていて、1992年の統計開始以来過去最高で、4期連続のプラス成長だった。経済評論家のある友人は、中国ではいち早くコロナを克服し、生産が正常化した。その結果、需給関係で、相対的に供給が需要を上回っている。一方で、国際社会では、全体として経済が上向いているが、まだ新型コロナを克服していない国が多く、生産が滞り、需要を満たせていない。その国際的な需要に中国が応じ、中国の貿易(輸出)が伸びていると分析していた。
中国経済は、好調な生産に消費が追い付いていない。確かに全体として消費は上向いているが、まだバラツキがあり、本格的回復とは言えない状況だ。社会消費品小売総額(小売り売上高)は前年同期比+33.9%と大きく伸びたが、1月―3月各月の、対前月比をみると、それほど大きな伸びとはなっていない。ただ、消費のバロメーターとなる新車販売は、かなり上向いてきた。2020年の新車販売台数は2531万1000台で、世界1位の座は揺るぎなかったが、それでも対前年比では-1.9%だった。2021年第一四半期の新車販売は648万4000台で、対前年同期比+75.6%だった。月ごとの内訳は:
1月が250万3000台、2月は145万5000台、3月は252万6000台だった。今年の新車市場は相当伸びるだろう。
新車と言えば、ガソリン車が淘汰されるのは時間の問題となっている。世界最大の中国市場では、すでに電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)などの新エネルギー車(NEV)の競争が過熱している。このガソリン車からNEVへの転換は、中国の「ポストコロナ」産業戦略の重要な一環でもある。
一時の最悪な時に比べれば、かなり改善されたとは言え、北京など大都市の大気汚染はまだ解決されていない。市民の不満は大きい。清い空気、青い空を市民に与える事が出来れば、政府に対する信頼度は上がる。また、日米欧に水を開けられている自動車産業で、競争力のあるNEV産業を育成できれば、需給両面で中国は世界1の自動車大国になれるかもしれない。
車好きは聞いたことがあるかもしれないが、昨年夏ころから、中国では「上汽通用五菱汽車」の格安EV車が大ヒットした。その名は「宏光ミニEV」。それまで中国市場で圧倒的優位を保っていたのは、テスラのEV車「モデル3」だったが、今年の第1四半期の販売台数で「宏光ミニEV」は「テスラ3」を抜いた。主に内陸部の中小都市や農村で需要が多かった。高い一般車には手が届かない、せいぜい移動手段に電動カートを使っていた人たちが飛びついた。電動カートと違い、EV車なら自動車保険にも加入できるという安心さもある。47万円―60万円という価格の安さとコンパクトさ、それに自宅で充電できるのも歓迎された。中国のEV自動車メーカーは海外進出をも目指す。「宏光ミニEV」はすでに第1四半期での海外市場で「モデル3」の販売台数を抜いたという話もある。自動車大手の「長城汽車」も格安EV車「欧拉R1」(俗称「黒猫」)で海外進出を狙い、2023年にはタイ、ベトナムなど30ヶ国に進出し、100万台を販売する計画だ。新興の「蔚来汽車」、「理想汽車」、「小鵬汽車」は、すでに米国で上場を果たしている。IT企業もEV車参入を狙っている。通信機器大手の「ファーウエイ」、ネット検索大手の「百度」、スマホ大手の「小米」などは、すでに参入を発表している。ただ短期的に見ると、NEV競争の足を引っ張る可能性があるのは半導体不足だろう。半導体は、世界的な不足に加え、中国は米国による禁輸に遭っている。中国は官民一体で半導体の自給率向上を目指しているが、時間が必要だ。日本では「佐川急便」が中国から7200台の小型EV車を、配送用トラックとして輸入することを決めた。
中国では、2035年にガソリン車の全面廃止が決まっている。EV車をめぐって、これから中国内でも、世界でも熾烈な競争が巻き起こるだろう。ついこの間まで従来型ガソリン車で、中国は「市場最大、製造後進」だったが、気が付いたら、中国はEV車で世界の先頭集団の中にいる。特に今後、「脱炭素」の波に乗って、中国製小型格安EV車が世界を席巻するかもしれない。
さて、新型コロナは世界をどう変えるのであろうか。世界経済の正常化は、1つ、2つの国が新型コロナを克服しただけでは実現できない。しかし、早く克服した国が有利なのは間違いない。それに「ポストコロナ」の具体的戦略を持った国と、コロナに振り回され、何ら戦略も展望もない国では、大きな差が生まれるだろう。ポストコロナは、米中という戦略を持った大国が、激しい競争をしながら、世界経済をけん引してゆくのだろう。日本は米中とどのような関係を築くのか、戦略と実行力が問われる。
4月6日、国際通貨基金(IMF)が2021年以降の、各国・地域の成長予想を発表した。以下の通りである。中国政府は、2021年の成長率を「6%以上」と控えめだ。理由は新型コロナの脅威はまだ去っていない、米中関係の悪化による経済的リスクだ。専門家の間では評価が分かれる。様々なリスクが重なれば、通年成長率6%クリアがやっとだという考えがある一方、第1四半期の勢いからすると、10%超えもあり得るというものだ。
年 別 2020年(確定) 2021年(予想)2022年(予想)
世 界 -3.3% +6.0% +4.4%
米 国 -3.5% +6.4% +3.5%
ユーロ圏 -6.6% +4.4% +3.8%
日 本 -4.8% +3.3% +2.5%
中 国 +2.3% +8.4% +5.6%
(2021年5月)(止)