No.22 難問山積ながら大国化加速

 1月23日から26日まで、北京に行って来た。今年は例年より寒く、朝晩は零下10度くらいだった。それでも街は活気に溢れていた。1つには、春節(旧正月)を迎える準備で買い物客が多いのと、もう1つは、やはり成長を続けている国独特の熱気だ。
北京では数人の学者や政府の幹部と会ったが、彼らの心配は3つあった。1つは、この冷えた日中関係をどう打開したらよいのか。2つ目は、米中関係をどう安定させたらよいのか。3つ目は、インフレをどう抑制したらよいのか。
対日関係は改善させたいと思っている。米中関係は、いろいろ矛盾はあるが、協調を基調とした関係に乗せたいと思っている。その意味では、先般の胡錦濤主席訪米は成功だったと評価している。経済については、当面はインフレの抑制、中長期的には成長構造の転換(外需型成長から内需型成長へ)を考えていると感じた。
 さて、2010年の経済指標が次々と発表されている。先ずはGDP成長率だが、物価上昇分を除いた実質で対前年比10.3%増加(前年は同9.2%増)し、3年ぶりに2けた成長になった。10年の名目GDPは39兆7983億元(約5兆8812億ドル)。完全にリーマンショックを克服したと言える。日本のGDP成長率は2月に発表されるが、内閣府の試算では5兆4023億ドルになるので、日中逆転は確実となった。
日本は1968年に、当時の西ドイツを抜いて以来守ってきた「世界代2の経済大国」の座を、ついに中国に明け渡す時が来たのである。今後若干の波はあるにせよ、このまま中国が成長を続ければ、2025年頃には、GDPで米国に並び、追い越すだろう。
 中国としては画期的な出来事だが、政府指導部や経済学者は意外と冷静だ。ある学者の見解では、①中国の成長は速すぎたため、格差問題などさまざまなアンバランスが生まれている。調和の取れた社会にはほど遠い。②これまでの成長は外需型であり、世界経済の波風をもろに受け不安定だ。これからは軸足を内需型成長に移さないと、安定的、持続的発展が望めない。③中国経済には深刻な問題が存在する。それは環境問題、エネルギー問題(1次エネルギー構成、エネルギー不足、エネルギー効率)、富の配分(格差)などで、潜在的には食糧問題もある、と言う。おそらくその外にも少子高齢化問題もあるだろう。GDPが日本を抜いたと、手放しで喜べない理由がここにあるのだ。それに、中国の人口は日本の10倍だ。1人当たりのGDPは、まだ日本の10分の1に過ぎない。将来GDPで米国に追いついても、1人当たりのGDPでは、米国の3分の1なのだ。
 そうは言っても、中国経済の勢いは本物だ。09年に大幅に落ち込んだ輸出は、完全に回復した。2010年通年の輸出は、対前年比31.3%増の1兆5779億ドルで、09年に続き世界1は確実だ。輸入も大幅に伸び、38.7%増の1兆3948億ドルで、貿易黒字は1831億ドル(対前年比-6.4%)と、やや均衡に近づいた。それでも対米、対EUの黒字は大きく、対米が1813億ドル(対前年比26.4%増)、対EUが1428億ドル(同31.5%増)だった。米国、EUからの人民元圧力は依然続くだろう。ただ米ガイトナー財務長官が言うように、インフレを加味した実質レートでは、人民元は年率10%ほど上昇しているのが実態だ。
 貿易黒字は外貨準備高を引き続き押し上げている。2010年末の準備高は2兆8473億ドルになり、ダントツの世界1。これは2位の日本の倍以上である。これだけの外貨保有国だから国際金融に与える影響は大で、人民元の国際化は思ったより早くなるかもしれない。また、この豊富な外貨保有を背景に、中国の世界における資源確保にも拍車が掛かるだろう。
 新車販売も依然伸びている。2010年の販売台数は1806万1900台(対前年比32.4%増)で、米国の1.56倍。生産台数は1826万4700台(同32.4%増)だった。主要国の車メーカーは全てこの世界最大市場に進出しているが、米国ではGMが、日本では日産が突出している。両社とも2010年に、中国での販売台数が自国での販売台数を上回った。
 さて、世界銀行はこの度世界経済見通しを発表した。それによると、2011年の世界経済の成長率は3.3%、2012年は3.6%と緩やかに回復するとの見方だ。中国については、2011年は8.7%と予測している。中国政府は8.0%と抑え気味の予測だが、実際には10%近い成長になるだろう。
 中国経済は光と影の部分を抱えながら成長を続けている。3月5日から全国人民代表大会が開かれるが、温家宝首相はどのような経済政策と目標を出すのだろう。注目すべきだ。