西園寺一晃先生の中国レポート No.112 2026年1月

新しい年がやってきた。正月の北京は静かである。1つは、不景気で節約令が出ているので、派手には騒げないのだ。もう1つは、中国では「正月」と言えば「春節」(旧正月)の事で、派手に祝うのは春節なのであり、西暦の年末年始は淡々と静かに過ごす。公式には1月1日だけが祝日で公休となるが、その他の日は暦通りである。因みに今年の春節は2月17日が元日となり、その前後15日から23日までが連休となる。最近つくづく思うのだが、北京は暖かくなった。寒波襲来でどんなに冷えても、朝晩の一番寒い時間帯でせいぜい零下7、8度である。筆者が生活していた1950年代末から1960年代頃は、真冬は零下10度が珍しくなかった。やはり温暖化なのであろう。気候変動は世界中にさまざまな自然災害をもたらしているが、中国でも年々台風、豪雨、洪水などが多発している。

2025年12月、党・政府・軍の主要幹部が参加する「中央経済工作会議」が開催された。この会議は2026年の経済運営の大枠を決めるもので、この会議の決定を受け、2026年3月に開催される全国人民代表大会(全人代)で具体的に政策化される。会議で強調されたのは主に2点である。1つは内需拡大に努力する事、もう1つは「新質生産力」(新たな質の生産力)発展の促進だった。つまり内需を掘り起こし、国内市場の拡大と強靭なサプライチェーンを構築し、産業構造のハイテク化を図る事により、中国経済を質の高いレベルで新たな発展の軌道に乗せるというものだ。2026年は第15次5か年計画スタートの年でもあり、今後の発展を模索する上で非常に重要な年だと位置付けた。

2025年の中国経済は波乱に満ちたものだった。良い分野と悪い分野がはっきりと分かれた。全体としては、通年のGDP成長率が+5.0%で、全人代で掲げた目標をクリアした。因みに2025年の各四半期のGDP成長率は、第1四半期(1月―3月)対前年比+5.4%、第2四半期(4月―6月)同+5.2%、第3四半期(7月―9月)同+4.8%、第4四半期(10月―12月)同4.5%。通年で同+5.0%であった。通年の成長率+5%はクリアしたが、四半期毎の推移を見ると、少しずつ落ちているのが不安材料だ。

悪い分野の象徴は不動産関連分野で、依然として厳冬期にあり、不動産企業による開発投資は対前年比-17.2%だった。これまで成長を支えてきたインフラ投資も同-2.2%で、比較可能な2015年以降初めてマイナスを記録した。不動産マーケットは上昇のきっかけがつかめない。不動産不況が主な原因で、中央銀行である中国人民銀行の2025年の貸出額は、対前年比-10%と大きく落ち込んだ。

消費は2024年後半から始まった耐久消費財の買い換え支援制度(注1)などで自動車、家電、通信機器などは上昇したが、2025年後半に入ると「尻つぼみ」状態になっている。多くの人は支援制度を利用して買い替えたが、支援制度がなくなる2026年は反動が来るのではないかと関連業界は心配している。2025年前半から中盤にかけて好調だった買い替え対象商品は、終盤急降下した。12月の自動車販売台数は対前年同月比-6.2%、家電は同-18.7%だった。購買担当者指数(PMI)を見ると、8月50.5,9月50.6,10月49.0,11月49.2,12月50.1と数字は微妙なところで彷徨っている。2025年通年の消費者物価指数(CPI)は対前年比0.0%だった。政府が掲げた目標は+2.0%だったので、やはりデフレ傾向は依然として続いている。原因は需要不足と、「内巻」(過当競争)による価格の下落である。

失業率の高さは経済不況を表している。特に若年層(16歳―24歳)の失業率は相変わらず高い。政府の必死の対策で少しずつは改善されているが、まだまだ異常に高いと言わざるを得ない。

2025年

平均失業率(%)

若年失業率(%)

8月

5.3 18.9

9月

5.2

17.7

10月

5.1

17.3

11月

5.1

16.1

12月 5.1

15.7

もう1つ深刻な問題がある。これまでは潜在的な問題だったが、すでに現実的な問題となっている。それは少子高齢化問題で、人口の減少、労働人口の縮小、高齢者の増大などが急速に進んでいる。その結果年金、医療、介護などの福祉が追いつかず、財源も近い将来危機的な状況を迎えると言われる。2025年末の人口は14億489万人で、前年から339万人減った。2025年の出生数は792万人で、死亡数は1131万人だった。60歳以上の人口は3億2300万人で、総人口の23%を占めた。生産年齢人口は2012年をピークに減り続け、これまで毎年平均300万人余減少している。政府は人口の減少と近い将来の労働人口不足対策として2つの政策を実行した。①「1人っ子」政策から出産奨励へ:中国は1979年から1人っ子政策を取り入れた。2016年には1人っ子政策を廃止、2人っ子、3人っ子政策に転じ、2021年に産児制限を事実上撤廃した。2025年7月、出産奨励のため3歳までの子供に1人当たり年3600元(約74000円)の育児手当を支給する事が決まった。2026年からはさらに保険適用内での分娩費用が無料になる。また2026年1月から、これまで免税だった避妊具、避妊薬に13%課税される事になった。②2024年9月政府は「定年延長」政策を発表した。それによると、向こう15年をかけて徐々に定年延長を行い、最終的には男性を現在の60歳から63歳に引き上げる。女性は50歳定年の職場は55歳に、55歳定年の職場は58歳に延長する。この定年延長は2025年1月から始まっている。政府はさまざまな対策を採り、出生率を上げ、労働人口の減少を食い止めようとしているが、この問題には住宅、所得、保育所、教育、医療、介護など、そして若者の意識の変化問題が絡むのでそう簡単にはゆかないのだ。しかし中長期的に見れば、この少子高齢化は中国にとって最大の問題である事は間違いない。

良い分野の象徴はEV(電気自動車)、AI(人工知能)、ロボットなどのハイテク分野であり、すでに世界の最先端に食い込んでいる。象徴的な出来事は、2025年中国EV大手の比亜迪(BYD)が米国EV大手のテスラを抜いてEV販売台数で世界のトップに立ったことであろう。2025年のBYDのEV販売台数は対前年比+28.0%の225万台、テスラは同-8.6%の164万台であった。BYDはEVのほかPHV(プラグインハイブリッド車)などを加えた新車販売総台数は同+7.7%の460万台だった。その王者BYDも国内競争で新興勢力に激しく迫られているところに、この分野での中国の凄さがある。中国ではこれまで新車販売は消費の動向を表すバロメーターと言われてきた。しかし不動産バブルの崩壊以降、不動産市場が低迷を続け、全体の消費を圧迫している。自動車市場が頑張っても全体の消費を大きく持ち上げる事は出来ない。ただ自動車、特にEV、PHV販売などの好調さは、中国の経済全体が悪いと言うわけではないことを示している。

中国経済の動向を見る場合、新車販売は大きな要素となるので、2025年の状況を詳しく見てみよう。全体の新車販売台数は対前年比+9.4%の3440万台だった。この内、国内販売は同+6.7%の2730万台、輸出は同+21.1%の710万台だった。輸出では新エネ車が同2倍になるなど大健闘した(注2)。中国国内における新車販売シェアで、中国ブランドは同+4.3%の69.5%となった。外資ブランドではドイツが12.1%、日本9.7%、米国5.9%、韓国1.5%であった。中国国内での中国メーカー同士の競争は熾烈を極めている。主なメーカーの販売台数は以下の通り。BYD460万台(対前年比+8%)、吉利411万台(同+26%)、広汽172万台(同-14%)、零跑59万台(同+103%)、鴻蒙(ファーウエイ系)58万台(同+32%)、小米41万台(2024年3月参入)、理想40万台(同-19%)。特に注目されるのは吉利、零跑、鴻蒙で、吉利は2026年の販売目標を500万台にして、首位の座をBYDから奪う勢いだ。零跑は低価格EVが人気で販売を大きく伸ばした。鴻蒙は通信機器大手のファーウエイがバックにいるのが強みだ。BYDは首位の座を守ろうと必死である。自動車販売は好調だったが、問題がないわけではない。それは2024年に始まった買い替え支援制度が大きかった。ところが2025年後半になるほど効果は鈍化した。対前年同月(同期)で言うと、1-3月は+11.2%、8月は+16.9%、9月は+14.9%、10月は+8.8%、11月は+3.4%、12月は-6.2%。しかし販売絶対数は9月―12月全て300万台を超えた。買い替え支援制度がなくなる2026年はどうなるか、自動車業界は心配している。

ハイテク産業に欠かせないのが半導体であり、最近ではAI半導体が最先端である。中国製造業のハイテク化を実現するためには半導体が不可欠だ。中国は2015年に、製造業のハイテク化を実現し、ハイテク中心の製造業の世界トップを目指す「中国製造2025」計画を制定した。当時の半導体自給率は10%に満たなかった。それでも米国、韓国、台湾、日本などから必要な半導体は調達できた。ところが中国の製造業の急速なハイテク化に脅威を感じた米国は、半導体の中国への供給を制限し、同盟国にも供給制限を要求した。ここから激しい米中経済戦争が始まるわけだが、製造業のハイテク化を目指す中国にとって、半導体が調達できないのは致命的であった。スマホ生産などは大きなダメージを受けた。特に国内で大きなシェアを誇っていたファーウエイはフル生産が出来なくなり、国内シェアは5位以下に急降下した。自給率が低く、米国から供給制限を受けたらどうするか。道は2つしかない。1つは米国以外に供給先を求める、もう1つは自給率を上げるかである。主な半導体供給国・地域である韓国、台湾、日本なども完全には米国に追従しなくとも、一定の対中制限策をとらざるを得なかった。中国は官民を挙げて半導体の自給率を上げる努力を始めた。中国の資金力と技術力を持ってすれば、半導体の自給率向上は充分可能だが、それには時間が必要だった。効果は確実に上がっていった。すでにスマホのトップ級企業であるファーウエイのスマホは、100%国産の半導体を使用するようになった。

現在の最先端の半導体はAI半導体である。この分野でも後進の中国は急速に米国など先進国に迫っている。中国のAI半導体は主に米国のエヌビディアに頼ってきた。エヌビディアはこれまで米国政府の様々な規制をかいくぐって対中輸出を維持してきた。米国の規制は厳しく、中国はこのままエヌビディアの先端半導体を調達するのが困難になりつつあった。例えばエヌビディアが台湾で生産した先端半導体「H200」などに1月15日、米国政府は25%の追加関税を発動した。完全に止めれば、中国を最大の得意先にしているエヌビディアが大打撃を受ける。米国政府にとっては痛しかゆしなのである。ともかく、中国にとっては非常に不安定な状態なのである。米国の調査会社「バーンスタイン」によると、2024年の中国AI半導体市場におけるエヌビディアのシェアは66%である。中国はこの分野でも「自立自強」のスローガンを掲げ、官民一体で自給率の向上に努力してきた。その結果多くのAI半導体企業が生まれ、その内の幾つかは急速に成長している。国営系では「中科寒武紀科技(カンプリコン)」、「海光」、「曙光」など、テック系では「崑崙芯」(百度系)、「平頭哥」(アリババ系)、「紫霄」(テンセント系)、「ハイシリコン」(ファーウエイ系)、そのほかここ1,2年で急成長しているのが「GPU4匹のスモールドラゴン」と言われる「ムーア」、「METAX」、「ビレン」、「エンフレーム」だ。2024年時点で3割だった中国のAI半導体自給率は、2026年には8割になる見通しだ。これら国内企業を守るため、中国はエヌビディアなどの製品に対し輸入制限をするのではないかとささやかれている。

対外貿易は、米国の関税圧力をかいくぐって健闘した。対米輸出は引き続き減少したが、その他の主要貿易相手国はほとんど増加した。貿易黒字は史上初めて1兆ドルを超えた。具体的には以下の通り。

2025年中国貿易

貿易総額   6兆3548億ドル(対前年比+3.2%)

輸出   3兆7719億ドル(同5.5%)

輸入   2兆5829億ドル(同±0%)

貿易黒字 1兆1189億ドル(2024年は9930億ドル)

主な貿易相手国・地域との輸出入額は以下の通り。

中国の輸出  対前年比増減(%)

1,ASEAN  +13.4%

2,E   U  + 8.4%

3,米   国  -20.0%

4,香   港  +15.5%

5,日   本  + 3.5%

6,韓   国  - 1.1%

中国の輸入  対前年比増減(%)

1,ASEAN  - 1.6%

2,E   U  - 0.4%

3,台   湾  + 6.0%

4,韓   国  + 3.1%

5,日   本  + 5.5%

6,米   国  -14.6%

2025年の中国の対外貿易で注目すべきは、対「一帯一路」沿線国貿易で、全体の伸びは対前年比+6.3%(元建て)だが、貿易黒字のうち4割を同地域が占めた事である。

「米中経済戦争」が始まって5年以上経つが、明確になった事が1つある。それは現代において大国間の「経済戦争」には勝者がいないという事だ。米国は対中貿易赤字解消を名目に、中国に「貿易戦争」を仕掛け、その後経済全般を含む「経済戦争」になった。中国は大きな被害を受けたが、そのリスクはブーメランのように米国に返ってきた。中国の貿易総額、特に輸出総額は減らなかった。貿易黒字も年々増えている。米国の対中貿易赤字は減ったが、米国全体の貿易赤字は減るどころか増えている。米国はハイテク産業に不可欠な半導体で中国を苦しめたが、中国はやはりハイテク産業に不可欠なレアアースで米国に対抗した。互いに困るのは当然である。当初米国は同盟国に同調するよう迫ったが、その後同盟国に対しても過酷な関税戦争を仕掛けた。巻き込まれた他の国はたまったものではない。特に対中国貿易、経済交流を断たれたら経済が崩壊しかねない国は多い。この間、米中経済戦争のとばっちりで、中国とEU、カナダ、オーストラリア、韓国、日本などの関係は悪化した。米中経済戦争、関税戦争、サプライチェーン分断で得をした国はない。程度の差はあるが、全ての国は被害を被った。昨年後半から今年にかけて、1つの流れが出来てきた。それは主要各国が対中関係改善に舵を切り出したことである。目的は経済だ。中国も呼応して各国との関係改善に乗り出した。先ずは米中関係である。何度かの首脳対話(含む電話対話)を通じ、米中関係の緩和機運が生まれた。トランプ米大統領は今年4月に北京を訪問する事になった。この米中関係の緩和機運の影響は大きかった。

2025年9月には中国と微妙な関係にあるインドのモディ首相が上海協力機構サミット参加のため訪中し、首脳会談において経済を軸とした関係強化を確認した。12月にはマクロン仏大統領が訪中し、関係改善を確認した。2026年1月に入り、韓国の李在明(イジェミョン)大統領が国賓として訪中し、これまで冷え切っていた両国関係を正常化する事で一致した。1月16日にはカナダのカーニー首相が訪中し、同じく関係改善で一致した。近く英国のスターマ―首相も、首相としては8年ぶりの訪中をする予定だ。これに先立ち、物議を醸していたロンドンに「中国メガ大使館」を設置する件に英国政府は同意した。主要各国の対中関係正常化の流れは今年以降も続くだろう。孤立を深めていた中国としては大歓迎である。これは分断されたサプライチェーン、分断された経済の協調と分業に対する「揺り戻し」だろう。世界経済にとっては朗報だ。やはり競争を基調にしながらも、各国が協力しないと世界経済は正常に回らないのだ。

この対中関係改善の流れに取り残された感があるのは日本である。中国の対日関係者は口々に今の日中関係は「国交正常化以来最悪な状況にある」と言い、非常に憂慮している。「一衣帯水」の日中両国は文化的な結びつきと共に、経済的な相互依存関係はますます深化している。切っても切れない関係なのだ。かつて周恩来が言った言葉を思い出す。「相争えば共に傷つき、和すれば共に利益を得る」。何とか正常化し、ウインウインの関係に戻り、両国首脳がかつて約束した「戦略的互恵関係」を築いて欲しいものだ。

2026年はどんな年になるのだろうか。中国経済については、3月に開催される全人代でどのような経済政策が出るのか興味深い。世界は混とんとしている。多くの人は平和を望んでいるが、希望と現実は往々にして一致しない。紛争と戦争は後を絶たない。戦争は憎しみの連鎖を生む、戦争が終わっても憎しみは消えない。どの国を見ても、今一番大きな課題は経済であり、人々の生活である。そのためにも平和と安定は不可欠なのだ。(止)

注1:2024年7月発表。個人が電気冷蔵庫、電気洗濯機、テレビ、エアコン、パソコン、給湯器などを買い替える場合、最大で価格の20%(1件当たりの上限は2000元)を政府が補助する。2025年まで継続された。自動車も対象で、ガソリン車は1.5万元まで、EV車は2.0万元まで政府が補助する。

注2:2025年新車販売台数の内訳:販売総台数3440.0万台(対前年比+9.4%)―17年連続世界1。内国内販売2730.2万台(同+6.7%)、輸出709.8万台(同+21.1%)。販売総台数の内乗用車3010.3万台(同+9.2%)、商用車429.6万台(同+10.9%)。NEV販売総台数は1649.0万台(同+28.2%)―販売総数の47.9%。この内BEV1062.2万台(同+37.6%)、PHV586.1万台(同+14.0%)、FCV0.8万台(同+52.9%)。

西園寺一晃   2026年1月25日

【筆者プロフィール】

西園寺 一晃(さいおんじ かずてる)氏

1944年生まれ

  • 明治の元勲・公爵・首相・枢密院議長である西園 寺公望氏を曾祖父に持つ。
  • 西園寺公一(きんかず)氏(第一回参議院議員・日中文化交流協会常任理事)の長男。
  • 北京大学経済学部卒業
  • 朝日新聞社に在籍中は、日中関係の調査研究室長などを歴任。退職後も中国問題の調査、研究にあたる。
  • 現在工学院大学客員教授、北京大学客員教授、伝媒大学客員教授、北京城市大学客員教授