No.38 活発化する「一人っ子政策」見直し論議

中国のような人口大国にはさまざまな悩みがある。不足することのない労働人口は確保する必要がある。その一方で、人口過多による食糧、資源、環境問題の危機も回避しなければならない。では「適正な人口」とはどのくらいなのかも基準は無い。
近年、国際社会では中国の経済状況が主な論議の対象になっているが、その陰に隠れて、中国で「一人っ子政策」見直し論議が熱を帯びているのはあまり知られていない。巷の関心も高い。
中国のような発展途上の人口大国にとって、人口問題は死活問題と言える。従って、これまで人口を巡り激しい論議が展開されてきた。特に1949年の建国から1978年まで、中国の人口政策は二転三転する。これまで中国の人口政策は8つの段階があった。1、人口増加奨励期(1949年―53年)2、家族計画の必要性認識期(54年-57年)3、家族計画後退期(58年―61年)4、人口問題重視・家族計画再認識期(62年―65年)、5、文化大革命による家族計画中断期(66年―70年)6、人口問題としての家族計画活動推進期(71年―78年)7、家族計画の強化と「一人っ子」政策実施期(79年以降)8、「一人っ子」政策の見直し論議と各種実験の実施(現在)。
「一人っ子」を中核とした計画出産政策は、1980年代から厳格に実施された。この政策は環境保護、耕地保護、科学教育立国、対外開放とともに「5大重要国策」とされた。
ところが数年来、この「一人っ子」政策が世論とメディアの圧力を受けるようになった。もともとこの政策が実施された背景は、非常に低い発展段階、限られた食糧生産と資源という状況の下で、人口圧力を軽減させる必要があった。ところが、改革・開放30数年を経て、中国は経済大国の仲間入りを果たし、ついに日本を抜いて世界第2の経済大国になった。まだ1人当たりのGDPでは日本の9分の1程度だが、国民の生活は飛躍的に向上した。さらに、「一人っ子」政策の結果、中国はハイスピードで少子高齢化社会に突入した。この状況が「一人っ子」政策の緩和を求める世論となって、政府に圧力をかけ出したのである。メディア、学者の多くも緩和論に傾いている。政府の主流も緩和派が多いようで、近く何らかの政策変更が発表されるという噂がある。
法律上はあくまで「夫婦は1人の出産しか許されない」(少数民族は適用外)だが、多くの地方で事実上「一人っ子」政策は崩れている。現在は「夫婦双方が一人っ子なら、2人の出産が許される」が主流となっている。また「試行」と称し、一部の地域では「1人目の子供が女児なら、もう1人産める」措置が取られている。
現在議論になっているのは「単独二胎」(夫婦どちらかが一人っ子なら、2人目の子供を産むことができる)。この構想を政府が正式に打ち出したのは2010年1月だが、学者グループは具体的提案を行った。それは「三歩走計画」(3段階計画)と言われるもので、第1段階は東北地方などで「単独二胎」を試行、第2段階は北京、上海などの大都市で試行、第3段階は「第12次5カ年計画」(2011年―2015年)期間中に全国で試行するというものである。
「一人っ子」政策は大きく緩和の方向に傾いているが、政府はなかなか「単独二胎」全面解禁に踏み切れない。それは、このまま「一人っ子」政策を続ければ、さらに少子高齢化が進み、近い将来労働力不足、福祉財源不足などが起きることが目に見えてはいるが、その一方で人口増加による環境破壊、食糧と資源の不足が持続的発展の足を引っ張るのではないかという不安を拭い去れないからだ。
現在中国の人口は約13億5000万人だが、「一人っ子」政策緩和に消極的な学者は、緩和すれば2030年の人口は16億人となり、経済を圧迫し、環境はさらに悪化すると言う。一方緩和に積極的な学者は、緩和しても生活の向上、出産観念の変化、都市化などで、出産率はそれほど上昇せず、2050年になっても15億人には届かないし、環境破壊は人口増加が主たる原因ではないと主張する。興味深いのは、消極的、積極的を問わず、多くの学者は「最も理想的な中国の人口は5億人」と考えていることだ。
この人口問題は、今後の中国経済の発展、環境、資源、食糧問題に直結する重要問題である。中国政府はどのタイミングで、どのような決定をするのだろう。注目は年末に行われる党の中央委員総会と来年3月の全国人民代表大会(全人代)でこの問題が正面から取り上げられるかどうかである。