前号リポートで、昨年の中国の成長率が8.7%で、念願の「保8」(8%成長死守)をクリアしたと書いた。その後、中国国家統計局は09年の詳細な経済指標を発表したので、重要なものだけ拾ってみる。
○ 09年各期成長率:
第1四半期 6.1%、第2四半期 7.9%、第3四半期 8.9%、第4四半期 10.7% 通年 8.7%
○ 09年産業別成長率
第1次産業4.2%(GDP中の割合10.6%)、第2次産業9.5%(同46.8%)、第3次産業8.9%(同42.6%)
○ 09年1級行政区成長率トップ10
①内モンゴル自治区17.0%、②天津市16.5%、③重慶市14.9%、④四川省14.5%、⑤広西チワン族自治区13.9%、⑥湖南省13.6%、⑥陝西省13.6%、⑧吉林省13.3%、⑨湖北省13.2%、⑩遼寧省13.1%
○ 09年輸出入状況
輸出入総額 2兆2073億ドル(前年比-13.9%)
輸出入総額 2兆2073億ドル(前年比-13.9%)
うち輸出総額 1兆2017億ドル(同 -16.0%)
うち輸入総額 1兆 56億ドル(同 -11.2%)
○ 09年対主要国・地域輸出入状況(億ドル)
国・地域 輸出総額 対前年比増減率 輸入総額 前年比増減率
E U 2363 -19.4% 1278 - 3.7%
米 国 2208 -12.5% 774 - 4.8%
香 港 1662 -12.8% 87 -32.6%
ASEAN 1063 - 7.0% 1067 - 8.8%
日 本 979 -15.7% 1309 -13.1%
韓 国 537 -27.4% 1026 - 8.5%
イ ン ド 297 - 6.1% 137 -32.3%
台 湾 205 -20.8% 857 -17.0%
ロ シ ア 175 -47.1% 213 -10.7%
○ 経済回復を先導した09年の新車販売
1 月 73万5000台(前年同月比 -14.4%)
2 月 82万7600台(同 +25.0%)
3 月 110万9800台(同 + 5.0%)
4 月 115万3000台(同 +25.0%)
5 月 111万9700台(同 +34.0%)
6 月 114万2100台(同 +36.5%)
7 月 108万5600台(同 +63.6%)
8 月 113万8500台(同 +81.7%)
9 月 133万 台(同 +83.6%)
10月 123万 台(同 +72.5%)
11月 134万 台(同 +96.4%)
12月 141万 台(同 +92.0%)
○ その他の経済指標
・09年中央政府の財政収入 6兆8477億元(前年比 +11.7%)
・09年食糧生産高 5億3082万トン(前年比 +0.4% 史上最高)
・09年工業生産額 13兆4625億元(前年比 +0.3%)
・09年建設業生産額 2兆2333億元(前年比 +19.2%)
・09年固定資産投資 22兆4846億元(前年比 +30.1%)
・09年国民所得
都市住民1人当りの可処分所得 17175元(前年比 +9.8%)
農村住民1人当たりの純収入 5153元(同 +8.5%)
・09年末の外貨準備額 2兆3992億ドル(前年比 +23.3%)
さて、温家宝首相は3月に開かれた全国人民代表大会(全人代)で次のように述べた。
「全国の各民族人民は、中国共産党の指導の下で、自信を固め、困難に立ち向かい、粘り強く闘い、国際金融危機の衝撃に落ち着いて対処し、世界に先駆けて経済回復を実現し、改革開放と社会主義近代化建設において新たな、かつ重大な成果を収めた」。これは勝利宣言である。
しかし、温家宝首相は一方で勝利宣言をしながらも、現在の中国経済に対して、決して楽観していない。それは次のような発言からも見て取れる。
「中国の経済発展はとても速いが、地域間のバランスは取れておらず、基盤は弱い。本当に現在化を実現するにはあと100年、あるいはもっと長い時間がかかる。・・・我々の社会には多くの不公平が存在する。所得分配の不公平さ、司法の不公平さなどだ。我々はこれらを重視すべきである。今後数年の道も平らではないだろう」。そして温家宝は戦国時代の楚の詩人宰相屈原の次の言葉を引用して、悲壮感漂う自身の決意とした。
「自ら信じる事ゆえ、九度死すとも悔いなし」。(全人代閉会後の記者会見)。
世界に先駆けて金融危機を克服した中国の首相が、「現代化にはあと100年かかる」と述べたことに対し、その意味をめぐり、学者や国民の間では議論がある。「勝って兜の緒を締めよ」的な一般的意味なのか、それとも中国経済には「重大な欠陥が存在する」と本当に危機感を持っているのかである。
先ず、中国の経済回復は本物なのかという問題だ。数字が示す通り、確かに中国経済の回復は目覚しい。08年夏以降に金融危機の大きな影響が出始めた中国経済だが、よく見ると決定的なダメージを受けたのは貿易だけである。そのうちの輸出は、これまで中国の高度成長を牽引してきたわけで、輸出の急激な落ち込みは、中国経済にとって大きな打撃であったことは間違いない。09年を見ると、1月から10月まで、対前年同月比で20%前後のマイナスが続いた。ところが、11月に入ると急速に改善し、ほぼ昨年並みに回復した(前年同月比
-1.2%)。そして12月にはプラスに転じた。2010年に入ってもこの傾向は続き、1月は1095億ドルで前年同月比+21.0%、2月は同945億ドルで+45.7%だった。欧米、日本の景気がなお低迷している中、中国の輸出が急速に回復してきたことは特筆に値する。中国の輸出の大半は欧米、日本といった先進国向けだが、その多くは労働集約型工場で生産された食品、繊維製品、皮革製品、玩具、アクセサリー、雑貨などである。これらの安価な商品は、先進国においてはすでに必要不可欠なものとなっている。ぜいたく品なら買え控えするが、必需品なら買わないわけにはゆかない。輸出の回復が本物である数字を挙げると、アジアから米国向けコンテナ貨物の09年のシェアだが、中国が65.5%と圧倒的である。2位が韓国の4.7%、3位が日本の4.5%である。造船でも09年に中国は受注量(350万CGT)※、受注残とも世界1となった。(※標準貨物船換算トン数)。工作機械生産額も、金融危機下、各国が苦戦する中、中国はプラス8.9%(109億5000万ドル)と健闘し、日本、ドイツを抜いて世界1となった。
一方で大規模な財政出動による内需拡大措置が取られ、効果が出始め、その効果はこれからさらに拡大するだろう。他方で一番落ち込んでいた輸出が急速に回復しだしたのである。中国経済が浮上しないはずがない。
ただ中国の指導部が手放しで喜べないのは、急速な経済回復の影に隠れているが、今回の金融危機で中国経済の構造的欠陥、アキレス腱が見えてしまったからである。その意味で、前述の温家宝発言は単なる「勝って兜の緒を締めよ」ではない。
温家宝が言うように、中国経済の抱える構造的欠陥は、一口で言えば「不均衡」、「調和が取れていない」だ。格差(都市と農村、沿海ベルト地帯と内陸部、一級行政区間、企業間など)、内需と外需、経済発展と環境、エネルギー効率、貿易構造、国営企業と民営企業など、さまざまな不均衡が存在する。さらに深刻さを増す腐敗現象、二重戸籍問題も放置できないところまで来ている。もちろん胡錦濤指導部は、二重戸籍問題に着手する決意を示したし、腐敗撲滅運動を展開しているが、結果を出さなければ国民は納得しない。
経済回復を実現させた中国指導部は、休むヒマもなく複雑な、長期的な戦いへと実を投ずることになる。