No.37 「生みの苦しみ」中国経済

2013年第2四半期の成長率が発表された。第1四半期の7.7%を下回る7.5%だった。「想定内」(中国高官)のぎりぎりの線である。2012年の第3四半期が7.4%とここ数年の最低だったが、それに次ぐ低さである。中国政府は景気減速を前に、景気下支えのための財政出動を当面採らない方針だ。それはリーマンショックの時、マイナス影響を最小限に抑え、景気を下支えするために4兆元(中央政府のみの数字で、その他を含めると10倍の40兆元が投入されたと言われる)という巨額の財政出動を行った。超金融緩和である。この財政出動は確かに効果があったが、副作用も大きく、不動産バブルを引き起こし、物価を上昇させ、社会不安を引き起こしたという教訓がある。
政府は景気の回復と不動産バブルを見て、金融引き締めに転じたが、それは中小企業をはじめとする基盤の脆弱な企業の資金繰りを悪化させ、「影の銀行」(シャドーバンキング)の蔓延を招いた。中国政府の債務は政府発表で対GDP15%だが、実際には50-60%と言われる。それでも国際基準では正常の範囲内だが、このまま地方政府をはじめとする「隠れ債務」が増え続ければ、巨額な不良債権が生まれ、中国経済は大きな打撃を受けることになる。
このような状況下、中国政府は一定の財政出動を行うのではないかとの見方もあったが、経済全般を指揮する李克強首相が採った方策は金融改革であった。7月19日、中国人民銀行(中央銀行)は突然銀行の貸出金利の下限撤廃を打ちだし、金融自由化へ大きく舵を取った。硬直した金利規制が「影の銀行」を増長させていると認識したからだ。
金融改革は早晩やらねばならない課題だったが、危険も伴う。金融の自由化の方向に進めば、銀行間に競争が生まれ、競争に負けた銀行は破たんする恐れが生じる。そうするとその銀行の預金者は被害を蒙ることになる。ある銀行が危ないと風評が流れれば、取り付け騒ぎが起こり、社会不安を招くことにもなる。預金保険制度などの預金者保護の体制がまだ十分整っていない状況下、金融改革先行は危険な賭けでもあるのだ。中国の預金率は高い。人々は銀行の状況を息をひそめるように見守っている。
さて話は変わるが、北京では日本の参議院選挙の結果が話題になっている。ほとんどのメディアが取材に走っている。主な関心事は3つだ。①大勝した安倍政権はどのような対中政策を採るのか。安定多数を獲得した安倍政権はさらに対中強硬路線を打ち出すのか、あるいは懸案である対中改善の道を模索するのか。②憲法改正はどうなるのか。中国にとって、憲法改正→自衛隊の国防軍化の先には「核武装化」、「軍国主義復活」が見え隠れするのだ。③当面の問題は、安倍総理は靖国参拝をするのか。特に靖国参拝問題は、多くの人が固唾を飲んで見ている状態だ。ある対日関係者は、日中関係の現状を憂い、「領土、歴史認識、東シナ海に、さらに靖国参拝が重なったら日中関係は終わりだ」と危機感を募らせていた。今年は日中平和友好条約締結35周年にあたるが、記念祝賀する雰囲気は全くない。日中経済関係は徐々に回復し、訪日観光客も少しずつ戻って来ているが、安倍総理の靖国参拝が実行されれば、何が起きるか恐ろしい気がする。
日本も中国も全力を挙げて経済に取り組みたいところだろう。互いに妥協、譲歩してでも不正常な両国関係の緩和の道を探ってほしい。これが中国で苦労しながら奮闘している日本企業の本心だ。