No.36 成長率7.7%で楽観論と悲観論

2013年第1四半期の成長率が発表された。7.7%だった。この数字を巡って議論が巻き起こっている。
2012年は中国経済が七転八倒した年だった。世界経済がなかなか立ち直れず、特に先進国の欧米日の経済が減速乃至足踏みする中で、外需型成長にどっぷりと浸かっている中国経済はもろに影響を受け、減速した。2011年から減速が始まり、それは2012年に入っても止まらなかった。12年の第3四半期には7.4%まで落ち込んだ。しかし、第4四半期で7.9%と持ち直し、各経済指標が上向いてきた。中国経済は12年第3四半期が底で徐々に回復基調に乗るというのが大方の見方となった。中国の経済学者も、世界の主な経済機構も13年の第1四半期は確実に8%の大台に乗ると予測した。ところが蓋を開けてみると7.7%と、12年の第4四半期より後退したのである。幾つかの国際格付け機関、例えばムーディーズ・インベスターズ・サービス、フィッチ・レーディングスはこの数字が出た後、中国のランク、あるいは評価を下げた。このことも悲観論に拍車をかける結果となった。
悲観論の主な論拠は、政治の壁(一党独裁体制が経済成長の足を引っ張る)、格差の拡大、幹部の腐敗による国民の不満、実体経済の深刻さ、日中関係の悪化などを挙げる。政治、外交問題はここでは触れないが、格付け機関が中国経済のランク、評価を下げたのは、主として地方政府の「隠れ借金」問題だ。中国政府の発表では、公的債務(中央・地方政府の債務)は対GDP比15%の7兆7600億元だ。これに対し、IMF(国際通貨基金)は同22%、11兆3800億元程度と見ている。
問題は中国の政府や各種金融機関もこの「隠れ借金」を深刻視していることだ。中国の「審計署」(会計検査院)の試算では10兆7000億元、中国の招商証券の試算では15兆元、また元財務部長(大臣)の項懐誠氏の試算では20兆元にはなると言う。資金不足に悩む地方政府は、窮余の策として「融資平台」(プラットホーム)を設立し、高利で資金調達を行い、開発、インフラ整備を行っている。例えば地方政府管理の国有地を業者に開発させ、そこに住宅や、リゾート施設を造り、その利益で開発費を返済する。上手くゆけば良いが、失敗すると債務が膨らむ。多くの場合は金利が10%-11%と高利だ。なお、地方政府は例外的な場合を除き、地方債を発行することはできない仕組みになっている。この部分の債務が膨らんでいると言われる。そしてこの債務は中央政府発表の「公的債務」にはカウントされていない。これらを勘案すると公的債務は対GDP比15%と発表されているが、実際には50%-60%の可能性がある。そうだとしても、少なくとも現時点では中国の公的債務は正常だ。大体60%以内なら許容範囲内と言われる。日本の236%、米国の107%に比べれば、そう深刻な問題ではない。ただこれが膨らみ続ければ、中国経済を圧迫する可能性がある。
楽観論者は非常に冷静だ。7.7%成長の数字を発表した国家統計局の盛来運報道官は、「7.4%-7.9%の間なら、安定成長の範囲である」と述べた。李克強首相も7.7%の数字が出た後、「経済は全体として良好で、成長速度は合理的である」と述べている。また習近平国家主席は、「(無理すれば)成長を早めることはできるが、我々はやらない」と述べている。
幾つかの重要経済指標が好転していることも楽観論の根拠だ。貿易、特に輸入だが、今年の第1四半期は輸出が18.4%と二桁の伸び、輸入は同8.4%で貿易収支は430ドルの黒字だった。ここのところ低迷していた新車販売も13年4月は189万9400台と対前年同月比15.3%だった。心配なのは日中貿易で、第1四半期はマイナス10%だった。日本からでないと調達できない高級素材や部品が入りにくくなったのは、中国経済にとって痛手だ。
内陸部のインフラ整備は着々と進み、近い将来大きな経済効果が期待できるというのも楽観論の根拠だ。内陸部農民の所得を向上させ、格差問題の緩和を図る決め手となるとされている、内陸部農村の「都市化」も進んでいる。改革・開放が始まった30数年前の都市住民と農民の人口比は25%対75%だった。それが12年末には逆転し、都市住民51%、農民49%となった。
もちろん内需の掘り起しがまだ不十分なのは、誰も否定しない。だがGDPにおける内需の比率が少しずつ大きくなっているのは事実だ。中国経済が内需型成長から外需型成長に変質してから、GDPにおける内需の貢献度は4割程度まで落ちた。因みに米国は同7割、日本は6割程度だ。ところが、12年末の時点で中国のGDPに対する内需の貢献度は51.8%まで上昇した。
楽観論者は、昨年の党大会で打ち出した、2020年の実質GDPと国民所得を2010年の2倍にするという計画も、内需掘り起しには有利だと主張する。将来に希望を持てば人々は消費に走るからだ。また一人っ子世代が社会の中核を占めるようになりつつあるが、この世代は消費意欲が旺盛で、消費により豊かさと利便性を追求する傾向がある。この世代を中心に2015年頃には第3次消費ブームのピークが来ると言われる。この中には本格的な中国人の海外旅行ブームが含まれている。先ごろ海南省で開かれた「ボーアオ・フォーラム」で、習近平主席は次のように述べた。「向こう5年間で、中国は輸入額10兆ドル、海外投資額5000億ドル、中国人の海外旅行延べ人数は4億人にする」。
米国経済復活の兆し、日本経済のデフレ脱却傾向も楽観論者の論拠となっている。国際機関の見方も比較的冷静で、おおむね2013年の中国経済は通年で8%台の成長を実現すると予測している。第2四半期の数字がどうなるか注目するところである。
いずれにせよ、中国経済が悲観論的要素と楽観論的要素を合わせ持っていることは事実だろう。その意味で習近平、李克強体制の経済運営能力が問われている。