18回党大会が終わった。予想に反して胡錦濤はすべての職から退くことが決まった。かつて鄧小平は無役のまま「最高実力者」として君臨し、党内には「重要な事項は全て鄧小平同志に相談する」という秘密規定があった。次の江沢民もこれを踏襲し、引退した後も「重要事項は江沢民同志に相談する」という決まりを作って、大きな影響力を保持してきた。このような封建的な慣習は胡錦濤により終止符が打たれた。多くの人はこれを歓迎し、胡錦濤の決断を称えている。
新指導部の陣容を見て、「江沢民色」が強いと感じた人は多いだろう。それは習近平、李克強を除いた政治局常務委員5人の内、張徳江、張高麗は江沢民派と見られていたし、兪正声、王岐山は「太子党」(かつての高級幹部の子弟)、劉雲山もどちらかと言えば江沢民に近いと見られていたからだ。有力な常務委員候補で、胡錦濤と同じ共産主義青年団出身の李源潮、汪洋、劉延東は外れた。ところが全く逆な見方がある。胡錦濤は今回人事で争わず、候補者のうち年功序列的に上位5人を選んだ。その結果、李源潮、汪洋、劉延東は落ちたが、年齢制限規定で5年後の大会では、習近平、李克強以外の5人は全て交代することになる。その後を引き継ぐのは、現在の序列から言えば李源潮、汪洋、胡春華、孫政才、周強など、ほぼ胡錦濤系列の人物となる。劉延東は唯一の女性候補として期待された面があるが、年齢制限規定で次回はない。今回は江沢民の顔を立て、花道を作ってやることで引導を渡したというわけだ。中南海の江沢民事務所も撤去されたそうだ。「損して得取れ」、「戦わずして勝つ」、正に孫子の兵法と言うわけだ。
さて、習近平体制は発足したが、内政、外交とも難題を背負っての船出と言える。中国経済はほぼ2年にわたり減速傾向が止まらなかった。2011年の四半期から今年の第2四半期までのGDP成長率は、9.7%→9.5%→9.1%→8.9%→8.2%→7.6%と落ちてきた。今年の第2四半期の7.6%が底で、第3四半期から反転上昇に転じるという見方もあったが、第3四半期(7月―9月)の成長率は7.4%と、減速傾向に歯止めはかからなかった。
ところが、習近平体制の発足に合わせるように、ここにきて中国経済は底打ち感が出てきた。中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は今回の党大会で「景気は緩やかながら安定し、幾つかの経済指標は上向きつつある」と述べた。確かに、力強いとは言えないが、10月の工業生産の伸び率は対前年同月比9・6%増、卸売物価指数は0.2%増と6か月ぶりにプラスに転じ、小売売上高なども14.5%増になるなど、経済に上向き感が出てきた。中国のGDPの1割強を占める新車販売台数も急降下状態からやっと抜け出し、10月は5.3%増と、2か月ぶりにプラスに転じた。雇用は堅調で比較的安定している。これらは中国政府が景気下支えのため行ってきた投資事業の認可加速(特に鉄道など交通網整備がけん引)などが効果を上げてきたからだ。輸出も光明が見えてきた。10月の輸出は1756億ドルで、対前年同月比11.6%増と4か月ぶりに2ケタの伸びだった(9月は9.9%増)。
ひと息ついた感はあるが、政府は楽観しているわけではない。不安定要素が多いからだ。内陸部を中心とした内需の掘り起しが成功するか、外需型成長から内需型成長への転換がスムースに進むか、新たな消費分野の創出ができるかなど、課題は多い。さらにはEU、米国の長期低迷、そして日本との険悪な関係が暗い影を落としている。日本の貿易総額に占める中国の割合は23%、中国の貿易総額に占める日本の割合は9.4%だ。もちろん「経冷」によるダメージは日本の方が大きいが、中国のダメージも少なくない。9月の日本からの輸入は9.6%減、10月は同10.2%減だった。
日中関係について言えば、一時は民間の人事交流や文化交流も止まってしまったが、最近少しずつ復活しつつある。経済関係もこれ以上悪くならないことが望ましいが、今中国の対日関係者は最悪のシュミレーションを恐れている。それは日本の総選挙の結果自民党(中心の)安倍政権が誕生し、安倍首相が靖国参拝をするというケースだ。ある対日関係者はこう言った「島の問題も軟着陸できないうちに、首相の靖国参拝が加わったら、中日関係は本当に終わりだ」。
中国と日本は世界第2位と第3位の経済大国だ。この2国間の経済関係が不正常になれば、世界経済に与えるマイナス効果は絶大だ。両国はアジア経済、世界経済の回復と発展のためにも耐えるべきは耐え、譲るべきは譲り、何とか関係改善を図るべきである。中国の多くの人も内心こう思っている。