中国経済の回復は目覚しい。09年第1四半期の成長率は6.1%にまで落ち込んだが、第2四半期で7.9%にまで戻し、第3四半期は8.9%の高水準に達した。1月―6月まで上半期の成長率は7.7%である(前リポートで7.1%と書いたが、中国側の最新発表では7.7%)。急速な回復の要因はいろいろあるが、一言で言えば、政府の内需拡大策が浸透してきたと言うことだろう。ただ、すべての面で回復してきたわけではない。輸出は相変わらず厳しい状況にある。
10月の輸出は前年同期比13.8%減の1107億6200万ドルだった。問題はこの数字をどう見るかである。09年に入り、8月までの輸出はかなり落ち込んだ。8月は対前年同期比23.4%減だった。8月以前の数ヶ月を見ても、対前年同期比で4月22.6%減、5月26.4%減、6月21.4%減、7月23.0%減と、20%を上回るマイナスだった。ところが9月から緩やかな回復を見せ始めた。9月は対前年同期比15.2%減と、減少幅が20%を下回り、10月は13.8%まで減少幅が縮小した。輸出総額も4ヶ月連続で1000億ドルを超えた。明らかに、緩やかな回復を見せ始めたが、前年同期比マイナスは変わらず、減少幅が縮小しただけだ。政府は決して楽観はしていないが、市場関係者の間では12月頃からプラスに転じるとの観測もある。米欧の経済が底打ちしたとの見方があり、玩具、靴、アクセサリー、雑貨など、労働集約型輸出産業に対する発注が上向いているというのが根拠だ。11月、12月はクリスマス商戦用の発注が増える時期でもある。
ただ、本格的な輸出の回復は中国だけではどうにもならない。主たる輸出先である欧米、日本などの景気回復が絶対条件であり、それはまだ遠いというのが一般的な見方だ。一方、輸出と共に大きく落ち込んできた海外からの対中国直接投資は、9月になって対前年同期比18.9%増(78億9900万ドル)とプラスに転じたのは好材料である。
輸出はまだ厳しいが、中国経済が急速に回復しているのは事実だ。このような状況の中で、水面下では3つの経済論争が行われている。第1は、経済の急速な回復は、一部でインフレ現象を起こしているが、その一方では全体としてまだ消費動向が鈍く、依然としてデフレの危険が去っていない。いま注意すべきはインフレかデフレか、金融は引き続き緩和すべきか、緩やかに引き締めに転じるべきかという論争。第2は、政府のインフラ整備を主体とした大規模財政出動で、鉄鋼、セメントなどが敏感に反応し、短期的には過剰生産となっている。これを抑えるべきか、あるいは容認すべきかの論争である。この論争は行政指導による生産調整か、市場メカニズムに任せるべきかの論争でもある。第3は、国営企業(国策企業を含む)と民営企業の関係の論争である。市場経済に移行してから、中国では国営企業が衰退し、民営企業が大いに力をつけた。これは改革・開放の成果とされてきた。しかし、今回の金融危機とその対策を契機に「国進民退」(国営企業が元気を取り戻し、民営企業が衰退する)現象が起きている。その原因は、4兆元の財政出動、10大産業振興計画といった内需拡大策のほとんどが、国営企業を優遇し、潤している結果となっているところにある。この国営と民営企業の再逆転現象をどう見るかという議論だ。ある人たちは「社会主義なのだから、基幹産業は国営企業が主力であるべきだ」と胸を張り、またある人たちは「国営企業が経済の動脈を握るのであれば、計画経済に戻ってしまう」と憂える。経済危機など、緊急事態下では、どの国も経済に対する国の関与が大きくなる。ところが長年の計画経済から脱し、市場経済導入を決めた中国では、国営中心、国の関与増大は、かつての計画経済を連想させるという特殊事情がある。かつてのような計画経済の復活はあり得ないが、今回の金融危機―政府の大規模財政出動―国営企業の盛り返しは、実際に起きている現象だ。大規模な財政出動は歓迎されているが、その恩恵が国営企業に偏っていることに対し、民営企業からは大きな不満が巻き起こっている。
さて、このような微妙な時期であるが、「創業板」と命名され、深圳証券取引所に設けられた、新興企業向け市場(中国版ナスダック)が10月30日取引を開始した。中国政府は次世代の有力企業育成という面で、大いに期待している。取引初日、上場28社の終値は、公募価格から大幅に上昇、一部銘柄は3倍に達した。株価の異常な高騰で、全銘柄が一時売買停止となるほどであった。明らかに実力を超えたバブルで、熱が醒めた後の株価急落が懸念される。とは言え、これまで欧米、日本などの下請けとしての労働集約型産業が経済成長を牽引してきたが、ハイテク、高付加価値産業の育成―産業構造の転換という意味で、「創業板」が期待されていることも事実である。中国経済回復の裏でさまざまな変化が起きている。