No.16 回復軌道に乗った中国経済

中国は笑顔で2010年を迎えたと言える。それは世界の主要国が依然として金融危機を脱せずに苦しんでいるのを尻目に、いち早く経済を回復軌道に乗せたためである。一昨年以来、中国の指導部は再三2009年のGDP成長率目標を「保8」(8%成長死守)としてきた。だが09年の幕開け当時、中国は「保8」でかなり苦戦すると見られた。国際的にも悲観論が多く、09年の成長率を6.5%-7.5%と予想する論調が多かった。それは09年第1四半期の数字が厳しいものだったのが主要な論拠だった。08年第4四半期が6.8%と、改革・開放以来最低水準だったが、09年第1四半期はさらに6.1%にまで落ち込んだ。中国経済に「黄色信号」が灯った瞬間だった。ところがその後08年11月に実施した内需拡大のための財政出動(4兆元)が効果を発揮しだし、第2四半期では7.9%にまで回復した。そして第3四半期は8.9%に上昇、第4四半期ではついに10.7%と二桁に乗せた。通年では8.7%と目標を上回った。8.7%と言えば、国際的には高度成長だ。中国指導部はホッとしているだろう。
09年の成長を引っ張った主な要因は政府の大規模財政出動である。具体的には内陸部中心の公共投資(インフラ整備)、補助金に後押しされた好調な自動車販売と家電販売。09年の自動車(新車)販売台数は1364万台を超え、米国(1043万台)を引き離した。生産台数でも1379万台と日本を抜いて世界1位となった。家電は「家電下郷」(農民が家電を購入する場合、政府が補助金を出す)などで、農村の需要を引き出したことが大きい。これら公共事業、自動車、家電などが関連産業を引っ張り上げた。
ただ、中国政府は手放しでは喜んでいないようだ。馬建堂国家統計局局長は記者会見で「中国のGDPが、日本を抜いて世界第2位になるのは時間の問題と言うが、1人当りのGDPは世界で100位以下だ。中国は発展途上国なのだ」と述べた。
中国指導部にとって、胸をなでおろしながらもショックだったのは、都市住民の可処分所得と農村住民の純収入の差が縮まっていないことだ。本来、内需拡大のための緊急財政出動は、内陸部の農民を潤すはずだった。もちろん高速道路、橋、鉄道など内陸部のインフラ整備は、巨大な雇用を生み出し、そのほとんどは農民の労働力である。農民が潤うのは間違いないが、09年で見る限り、都市住民と農村住民の所得格差は逆にわずかながら開いた。農民の平均収入は対前年比8.5%増加したが、都市住民は9.8%増加、格差は3.3倍となった。これは単純な所得格差であり、教育文化、福利厚生などを加味すると、その格差は大きい。中国政府は、今回の金融危機を乗り切る中で、都市と農村の格差問題を緩和させようと考えていたが、この結果は大きなショックだったようだ。もちろん内陸部のインフラ整備は、短期間で出来るものではない。5年、10年で考えれば、確実に内陸部農民に潤いをもたらすだろう。その意味で、2010年はどうなるのか興味深い。
中国政府のもう一つの心配は、不動産と株のバブル懸念だ。政府は引き続き金融緩和を維持する構えだが、銀行の貸し出し枠拡大などによる大量の資金が株や不動産市場に流れ込んでいる。その結果、主要70都市の不動産価格指数は、09年12月時点の全国平均で対前年同期比7.8%上昇した。主要都市の不動産価格指数は、金融危機のあおりで下降線を辿ったが、09年6月に対前年同月比プラスに転じ、その後価格上昇は加速している。例えば、09年12月の時点で、北京では対前年同月比9.2%上昇、上海は同7.4%、広州は同8.7%、深圳に至っては18.9%も上昇した。これは投機によるものであり、特に実際に住宅を購入しようとする人たちの不満は募っている。もちろん政府もこのことは承知していて、対策を講じている。その1つは、1月12日に発表した1年7ヶ月ぶりの預金準備率引き上げ(0.5%)である。市中における資金のだぶつきで、資産バブルやインフレの懸念がある。だぶついている過剰資金の吸収を強化するということだ。ただ、金融は基本的に緩和政策を維持し、金利の引き上げによる金融引き締めは当分行わない方針だ。09年12月に上海を視察した温家宝首相は、不動産バブルに警戒感を示し、「不動産投機抑制は必要」と述べている。
中国の株取引の中心は上海だが、活発な株式市場の結果、09年上海証券取引所の株式売買代金が東京証券取引所を抜いた。このことは象徴的な出来事と言える。それは、アジアの金融中心が東京から上海に、日本から中国に移ったということだ。実は09年のGDP総額は、中国が日本を抜いて、米国に次いで世界第2位になると言われていた。詳しい数字は1月時点で発表されていないが、どうもかろうじて日本がわずかの差で第2位を守ったようである。これは数字のからくりで、円高に負うところが多い。円高ドル安でなかったら、ドル建てによるGDP総額で、日本は確実に中国に抜かれていた。
さて、抱える課題は多いが中国経済は確実に回復基調に乗った。格差の問題は切実だが、中国国民の所得の伸びは依然速い。09年の国民1人当たりのGDP平均は3500ドルほどだが、上海、北京、広州、深圳など大都市は1万ドルを突破する勢いだ。中間層、富裕層は増加している。すでに日本には富裕層を中心に、中国の観光客が押し寄せ始めた。東京など大都市では、駅には中国語の表示が設置され、デパートや大型量販店では中国語放送が行われている。中国観光客の購買意欲は旺盛だ。これは韓国でも同様らしく、韓国の「朝鮮日報」(09年12月2日付)によると、中国人観光客が日本人に代わり「韓国デパート最大のVIP」になったと報じた。円高が解消され、入国ビザ取得手続きが簡素化されれば、日本への観光客は一気に増加するだろう。中国観光客のニーズが高い風光明媚な観光地(海、山)、温泉、海鮮、買い物など条件の揃う新潟は、東京から多くの中国観光客を引っ張れる可能性がある。それにはもっと新潟の観光名所や温泉、海鮮を中心とした食文化を紹介、宣伝する必要がある。