リーマンショック以降、中国経済は輸出や外資導入の落ち込みが大きく、全体の経済成長の減速を招いた。2011年の4四半期から2012年の第3四半期まで、成長率は緩やかに落ちてきた。2011年の4四半期の成長率は9.7%→9.5%→9.1%→8.9%だった。この減速は2012年に入っても止まらず、3四半期(第4四半期は1月13日現在未発表)の成長率は8.2%→7.6%→7.4%だった。
ところが第3四半期で底を打ち、その後は上昇に転じるという観測が主流となり、経済は少しずつ活気を取り戻してきた。おそらく2012年第4四半期は8%を上回り、通年でも目標の7.5%を超え、7.8%-8.0%くらいになるだろうと予測する向きが多かったが、先般発表された数字は、2012年第4四半期の成長率は対前年比7.9%、通年では7.8%であった。第4四半期の数字は予測より若干低かったが、まあ予測範囲であろう。その他、発表された主な数字は次の通りである。対前年比で、工業生産+10.0%、輸出+7.9%、消費+14.3%、固定資産投資+20.6%。
英国大手銀行HSBCが年末に発表したPMI(製造業購買担当者景気指数)によると、昨年12月の確報値は51.5と11月から1ポイント上昇し、4か月連続好不況の分水嶺である50.0を上回った。ここ数年、中国では景気動向を最も敏感に反映するのは不動産業界だ。その不動産業界は、このところ政府の「不動産価格抑制」政策で冬の時代が続いていたが、ここにきて俄然活況を取り戻している。
リーマンショック以前、中国の経済は過熱気味で、沿海ベルト地帯の大都市を中心に不動産バブルが起き、物価を押し上げた。中国政府は必死で不動産価格抑制、インフレ防止策を講じ、金融引き締めを強化した。そこにリーマンショックが起き、政府は経済の下支えをするために金融緩和に転じた。そして中央政府は4兆元の財政出動をしたわけだが、地方政府の財政出動や銀行の貸出枠拡大、内外の投機資金の流入などを含めると、40兆元ほどが市中に出回った。この一部が不動産市場に流れ、内外の投機資金も流入、不動産は再びバブル状態に突入した。物価も上がり始め、CPI(消費者物価指数)は2011年7月には対前年同期比+6.5%まで跳ね上がった。特に食料品は14%、その中でも豚肉価格は57%も値上がりした。政府は緩やかに金融引き締めに転換、不動産バブルを抑え、インフレ防止のために厳しい不動産規制を続けた。2012年に入り、物価上昇は3%台→2%台になり、7月には1%台にまで落ちた。物価上昇、インフレ懸念は無くなったが、今度は中小企業を中心に企業が悲鳴を上げた。景気が回復していないのに、金融引き締めをした結果であった。そこで政府は再び緩やかな金融緩和に軌道修正することになる。昨年、政府は2回の利下げを行った。
こうした中、経済減速の底打ち感が広まり、先行きの経済に楽観論が流れ出した。やはりいち早く反応したのが不動産であった。昨年12月には不動産価格が9か月ぶりに、対前年同月比上昇に転じた。北京在住のある友人は、北京で不動産価格が上昇し始めたのは昨年の夏以降で、年末までに平均すると15%くらいは上がっただろうと言っていた。北京のある大型分譲マンションは、昨年夏頃までは1㎡4万―5万元(1元は約13円)だったが、秋から年末頃には6万―7万元に跳ね上がったという。国家統計局によると、昨年11月時点で新築住宅価格が対前月比上昇したのは、主要都市70都市のうち53都市だった。不動産価格上昇の原因は大きく分けて3つだ。1つは、景気の再上昇、物価の上昇、所得の向上(昨年11月の党大会で、2020年までにGDPと国民所得を対2010年比2倍にすると宣言)を見越し、国内でだぶついている投機マネーが不動産市場に再び流れ込んだ。2つ目は、不動産価格上昇と不動産税施行を見込んで、駆け込み購入が増え価格を押し上げた。3つ目は、一時離れていた海外の投機マネーが再び中国回帰を起こしていることだ。不動産税(固定資産税)は現在上海市と重慶市(共に試行)以外存在しないが、今後不動産価格を抑制するために導入されるだろうと言われている。
さて、北京の人たちは中国経済について比較的楽観的だ。物価は低位安定しているし、今年は8%を超える成長率が確実だと確信している。さらに、昨年の党大会で決議された中国版「所得倍増計画」は人々に希望を与えた。国際機関の予測も比較的前向きで、WB(世界銀行)、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)とも2013年の成長率を8.2%-8.5%程度と予測している。しかし中国の専門家の多くは慎重だ。古くから付き合いのある経済学者は「確かに経済は復調する傾向にあるが、基礎はまだ堅固ではなく、中国にとって重要な輸出は、2012年の目標は10%増だったが、結果は7%増程度になるだろう。新車販売も対前年比4-5%増にはなるだろうが、当初の目標である2000万台には及ばない。警戒心を緩めてはいけない」と言っていた。実際発表された輸出の伸びは7.9%で、彼の試算より大きかったが、10%増の目標には届かなかった。
経済学者や企業家が2013年の経済で注目しているのは、雇用と賃金である。2020年までに「所得倍増」を達成すれば、消費は飛躍的に伸びるだろうが、これがどの程度雇用拡大になるのか、そして賃金がどの程度上昇するのかである。「光明は見えた、しかし実際はまだ霧の中」という事か。