中国株の急落が大きな話題となった。この影響は日本や東南アジアにも及んだが、なりふり構わずといった中国政府の関与で株価は下げ止まりし、ひとまず落ち着き感が出ている。中国の株投資家の82%は個人投資家であり、まだ成熟していない。急落するとパニック状態に陥り、あわてて売りに殺到し、それがまた株価を下げる結果となった。ただ「大変だ!」という空気ほど大変ではないようだ。流通株式の約60%は政府や国有企業が保有しているので、政府の関与が効果を発揮し易い状況があるからだ。政府がこれ以上の株安を望まないという態度を示したので、個人投資家も少し落ち着きを取り戻したというわけだ。
中国では経済構造の転換が行われているが、その成果が出るには時間がかかる。これまでの成長モデルが通用しなくなり、成長率が低下しだした。さらに経済成長に大きな影響を及ぼす不動産市場が低迷したので、不動産に流れていたマネーが株に向かっていた。その結果、成長率減速下での異常な株高という現象が生まれた。つまり実体経済とかけ離れたところで株価が一人歩きしていたのである。株価急落と言ってもまだ昨年半ばよりははるかに高い。
さて、第2四半期(4月―6月)のGDP成長率が発表された。対前年同期比+7.0%であった。第1四半期と同じ伸び率であるが、対前期比では第1四半期が+1.3%であったのに対し、第2四半期は+1.7%とやや好転した。ただこれは経済構造の転換が力を発揮しだしたわけではない。政府及び国営企業、保険会社、証券会社などの株価対策、昨年11月から今年6月までの4回にわたる利下げ、今年2月と4月の預金準備率引き下げ、前倒しを含む地方のインフラ整備の加速などを行い、景気を下支えしたからである。もう1つの要素は、不動産市況が、大都市を中心にやや上向いてきたからである。第1四半期の不動産販売額は、対前年同期比-9.3%だったが、第2四半期は、同+10.0%と二桁上昇となった。その一方で、かつては成長をけん引した新車販売が依然低迷している。輸出は対前年同期比で、6月が+2.8%と4か月ぶりに対前年同期比で上回り、少し光が見えてきたが、輸入は同-6.1%と、8か月連続で落ち込んだ。貿易全体はまだ本格的に回復していない。
中国国家統計局の専門家は、今年後半の景気は今より上昇するだろうから、通年の目標である7.0%成長は実現できると見ているようだが、まだまだ不安定要素は多く、予測は難しい。なお、7月に発表された最新のIMF(国際通貨基金)予測では、中国の通年成長率は+6.8%である。
国内経済は低迷感を免れないが、対外投資には勢いがある。ここ数年、中国政府は「走出去」(海外に打って出る)政策を強化している。昨年の国内直接投資は、対前年比1.7%増の1196億ドルであったが、対外直接投資は、同7.6%増の1160億ドルだった。対外直接投資額が国内直接投資額を上回るのは時間の問題である。中国はすでに世界第3位の対外投資実績を持つが、今後AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立や「一帯一路」(陸と海のシルクロード経済圏設立)計画の推進、あるいは人民元の国際化で、投資を含む中国の経済的対外進出に拍車がかかるであろう。
中国経済は苦戦しているが、世界の実体経済の中では確実にその存在感を増している。世界銀行の統計によると、購買力平価ベースのGDPは、世界全体が108.5兆ドル、中国は18兆ドルで、米国の17.4兆ドルを抜き、世界トップとなった。なお、インドはすでに日本を抜いて3位となっているが、昨年は7.4兆ドルで、4位の日本の4.6兆ドルとの差をさらに広げた。このように、かつては日の出の勢いだったBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)はそれぞれ大きな困難を抱え苦戦しているが、世界の実体経済の中では、相対的に力を拡大させている。それをけん引しているのは中国とインドである。購買力平価で、BRICSのGDPは33.1兆ドルで、世界のGDPの30%を超えた。これはG7の34.5兆ドルに迫るもので、今年中に逆転するかもしれない。
BRICSが共同で創立した新開発銀行(BRICS銀行)が7月21日、上海で開業式を行った。本部を上海に置き、初代総裁はインドのK・V・カマートが務める。これまで国際通貨基金(IMF)、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)などを通じ、世界の金融は米国を中心とする先進国が主導してきたが、世界の金融地図が少しずつ塗り替えられつつある。
中国経済の減速、低迷が大きな話題となっている。確かに中国経済は難問山積だ。その一方で、世界経済の中で中国経済は着実に影響力を増している。この両面を見ないと、今の中国経済の本当の姿は理解できない。(止)西園寺