この2か月間、中国に関して大きな出来事が幾つかあったが、ここでは2つのことを取り上げる。
先ずは、中国経済が減速を続ける中、先月26日―29日、北京で「中国共産党18期第5回中央委員会総会」(18期5中全会)が開かれたことである。この会議では、当面の経済情勢、第13次5ヶ年計画など、主に経済について集中論議が行われた。直前に発表された第3四半期の成長率が7.0%を割り込み、6.9%だったこともあり、経済に議論が集中したことは当然である。総会コミュニケは「国内外の情勢の大きく複雑な変化、特に経済の下振れ圧力増大という試練を前にして・・・」と述べているように、指導部は現在の経済情勢に一定の危機感を抱いているが、全体として、今は改革途上にあり、7%前後の成長率は想定内と考えているようだ。新華社の解説では「改革の全面的深化の意思と決意が固く、諸改革の目標を実現する行動が力強いものとなることが見て取れる」としている。市場の一部には、経済下支えのために大規模な財政出動と大胆な金融緩和を望む声があるが、多くの学者、専門家はこれを否定、中国指導部は短期的刺激策で、無理に経済成長率を上げることはないだろうと考えている。ここ数年、経済成長率の目標を7.0%に設定してきたが、今年の第3四半期は目標を割り込み、6.9%となった。通年でも7.0%は難しくなったという観測が多い。日本では「中国経済崩壊論」が横行しているが、中国の学者、専門家の圧倒的多数は、今は我慢の時であり、成長率はもう少し落ちるだろうが、改革の効果が徐々に表れ、ソフトランディングはできると考えている。
18期5中全会では来年から始まる「第13次5ヶ年計画」が議論され、「党中央の提案」が採択された。この提案を踏まえ、さらに具体化し、来年3月に開催される全国人民代表大会(全人代)で正式に決まる。目標成長率が注目されたが、どうも6.5%になりそうである。この数字は高いか低いかで議論はあるが、6.5%を割ることは許されない。と言うのは、中国共産党は中国国民に約束していることがある。それは2020年のGDPと実質国民所得を2010年の2倍にすることだ。日本では池田勇人内閣時代に「所得倍増計画」があったが、これはいわば中国版「所得倍増計画」だ。これは公約であり、達成されなければ中国共産党の権威が著しく損なわれる。2010年から2014年までの成長率は、それぞれ10.6%、9.5%。7.7%。7.7%、7.4%だった。計算では、2010年から2020年の平均成長率が7.2%で、GDPは2倍になる。2016年から2020年までの平均成長率が6.5%以上なければ、2倍は達成できない。
中国経済の減速の原因は、大きく見れば世界経済の低迷と中国経済の構造的問題だが、当面の原因は内需、外需両方の低迷による。特にこれまで成長を牽引してきた輸出が落ち込んでいる。内需関連では、製造業が需要の減少で、過剰生産になり、在庫が増えている。また不動産が低迷、内需の花形だった新車販売も勢いを失った。一方、サービスは好調で、勢いがついてきた。これまであまり高度成長の恩恵を受けてこなかった、内陸部農村地帯の都市化が進み、新しくできた中小都市間を道路(一部は高速)と鉄道(一部は高速)で結ぶ計画が進めば、流通革命が起き、大きな経済効果が生まれ、大きな需要が生まれるだろう。さらに、膨大になり国内に収容しきれなくなった中国の生産力が活躍する場として「一帯一路」(陸と海の新シルクロード経済圏)計画がある。過剰生産に苦しむ鉄鋼やセメントなどの消費先を開拓することができれば、中国経済は勢いを取り戻すことができる。その「一帯一路」計画を金融面からサポートするのがアジアインフラ投資銀行(AIIB)である。これはある意味インフラ整備のための金融支援を望む発展途上国と、新たな市場を求め外に出てゆきたい中国経済とのウイン・ウイン関係の構築になるというのが中国の大義名分である。中国経済は、減速と改革との競争だ。正念場にある事は確かだ。
二つ目は中国の対ヨーロッパ経済外交の活発化である。最近中国に新語が生まれた。日中関係の現状をかつて「政冷経熱」(政治関係は冷え込み、経済関係はホット)と呼んだが、最近「東冷西熱」という言葉が言われだした。東の関係は冷え込み、西の関係は熱い、つまり中国とアジアの関係は、日中関係は冷え込み、アセアンとは南シナ海問題でギクシャクしているが、欧州との関係は英、独、仏をはじめ非常にホットだという意味だ。
確かに最近中国の対欧州経済外交は目を見張るものがある。ここ数年、独との関係は経済を軸にホットな関係にあった。10月に訪英した習近平国家主席は、英皇室まで動員した異常なまでの歓待を受けた。英中は中国の対英原発輸出(当面3基)を含む大型エネルギー、高速鉄道など多分野での協力拡大で合意し、総額400億ポンドの成約を実現させた。特にエネルギー分野の協力は、まさに「戦略的互恵」そのものと言える。具体的には、英国の中国製原発導入、英石油大手のBPが中国電力大手の中国華電集団に今後20年に渡り、毎年最大100万トンの液化天然ガス(LNG)を供給する。BPは中国石油天然気集団とも、中国のシェールガス開発(四川省)で提携することが決まった。両者は中国でのガソリンスタンド経営でも合弁事業を検討する。また両国はロンドンで人民元立ての国債を発行することで合意した。中国にとって海外では初めてのことである。独中も経済関係急拡大が進んでいる。独メルケル首相は英国に対抗するように10月に訪中し、李克強首相との間で金融、インフラ、貿易、自動車、航空、機械、ITなど多分野での協力関係強化で合意した。特筆すべきは、フランクフルトに人民元建て金融商品を扱う国際取引所を開設することで合意したことだ。今年中にIMFの基準通貨(メジャー通貨)の仲間入りをするのが確実な人民元の取引センターの座を狙う独と、人民元の更なる国際化を目指す中国の思惑が一致した。更に中国は苦境に立つ独フォルクスワーゲン(VW)支援を表明した。中国の対英原発輸出は、実は仏の利益に直結する。英中が合意した3基の原発は、全て仏が関り出資している。低迷を続ける仏原子力産業にとって、原発に関する英中合意は「神風」となる可能性がある。英中首脳が原発協力で合意した日、マクロン仏経済相は「仏原子力産業の成功の象徴」と喜んだ。仏原子力産業界では「仏原子力産業の再始動を示すグッドニュース」と大歓迎している。中国にとっても、経済外交の「大勝利」だ。中国経済の国際化がさらに進み、英独仏の支持を得て、「一帯一路」計画が欧州に繋がった。そして中国は日米仏ロに並ぶ原発輸出国の仲間入りをしたわけだ。
中国経済は苦難の中にあり、アジア太平洋地域では中国vs日米という構図が重くのしかかるが、一方で中国経済は着々と国際化を拡大している。早ければ11月中には、人民元が正式にIMFの基準通貨と認定される。米ドル、ユーロ、英ポンド、円に次ぐ第5番目のメジャー通貨として各国が外貨準備に活用することになり、国際決済に用いられる。中国悲願の人民元国際化の実現だ。実際には人民元の国際化は確実に進んでいた。国際決済通貨のシェアで、今年8月には人民元が円を逆転した。今後人民元のシェアは拡大してゆくだろう
日本での中国経済に関する報道には、正直違和感を持つ。あまりにも悲観的で、崩壊論がまかり通っている。確かに中国経済は苦難の最中にあるが、着々と手を打っていることも事実で、一部で成果が表れだしている。失敗と成功、消極面と積極面、陰と光の両面を客観的、冷静に見ていないと誤る。どうして日本の対中投資は激減し、欧州の対中投資は増えているのか。もちろん経済が低迷する欧州各国は、チャイナマネー取り込みが必要という面があるが、根底には中国経済はまだいける、今後国際社会における、経済を中心とした中国の存在感は増すという認識がある。好き嫌い、好むか好まざるは別にして、大きな趨勢を見誤ると日本は遅れをとる。止