2012年がスタートした。辰は龍、中国では「辰」は「振」に通じ、物事が整う、振興する、大いに伸びるという意味がある。干支的には悪くない年である。
さて、2012年の中国は2つの理由から内政の年になるだろう。1つは、この秋に中国共産党の第18回大会があり、そこで胡錦濤指導部が退陣し、習近平新指導部が発足する。現在党の最高指導部は政治局常務委員会であり、そのメンバーは9人である。9人という人数が変わらないとすると、新構成はどのようなメンバーになるのか、中国にとって決定的重要性を持つ。内規によると、NO1は党総書記、国家主席、NO2は全人代委員長、NO3は首相、NO4は政治協商会議主席に就任する。現在のメンバーのうち、確実に留任するのは習近平(現国家副主席)、李克強(現副首相)の2人である。あとの7人は引退するであろうが、その後任は決まっていない。この7つの席を巡って、これからさまざまな葛藤と駆け引きが繰り返される。ほぼ決まるのは夏明けくらいだろう。政治好きの北京っ子の予測論議はすでに白熱を帯びている。習近平、李克強以外に常務委員会入りが有力だとされているのは、李源潮、薄熙来、張徳江、孟建柱、王洋、兪正声、劉雲山などである。今の時点でこれ以上の予測は無意味なので、機会があれば夏前後に最新情報をお伝えしたい。
2つ目は、経済である。中国経済は1979年以降、改革・開放の名の下に驚異的発展を遂げてきた。そして30数年経た今、中国経済は転機に立っている。「転機」という意味は、国内外の情勢の変化に鑑みて、産業構造を転換し、発展戦略を見直さないと、持続的発展は難しいと中国指導部が認識したからだ。中国共産党機関紙「人民日報」の元旦社説に意味深長な一節がある。
「われわれは頭を冷静にし、目下わが国の発展において不均衡、不調和、持続不可能といった矛盾や問題がなお際立っており、新しい年に世界経済が全体としてなお厳しく複雑で、景気回復の不安定性と不確実性が増大していることを見なければならない」。
これを見る限り、中国指導部は現在の中国経済についてかなり深刻に受け止めている。ただ、深刻というのは決して悲観的と言う意味ではない。2011年の成長率は第1四半期が9.7%、第2四半期が9.5%、第3四半期が9.1%、第4四半期が8.9%で、通年では9.2%だった。2011年が10.3%だったので、1ポイント以上鈍化したわけだ。2012年は8%台に落ちると予測されるが、ここまでは想定内である。リーマンショックからいち早く立ち直った中国経済は、再加熱―インフレ傾向に悩まされてきた。何と言っても都市部の不動産は完全にバブル状態が続いてきた。その結果、不動産は上がり続け、物価上昇の起爆剤となった。消費者物価上昇率は6%台が続いた。特に深刻だったのは庶民生活を直撃する食料品の値上がりで、昨年のピーク時は平均で14%上がり、その中でも食生活に不可欠な豚肉は57%も上昇した。政府は金融引き締めを強化し、不動産価格抑制にさまざまな手を打ち、食品に対する行政指導を強めた。その結果不動産価格は徐々に下落、消費者物価上昇率も5%へ、そして4%台に落ちた。これだけ見れば万々歳である。しかし、物事はそう単純ではない。金融引き締めの結果、企業、特に中小企業が悲鳴を上げだしたのだ。金利の上昇と銀行の貸し渋りで倒産件数もウナギ登りだ。政府は不動産バブルと物価上昇傾向を横目でみながら、徐々に金融緩和に向けて舵を取り出した。
ここ数年、不動産とともに中国経済の高度成長を引っ張ってきた新車販売は複雑だ。ここ10年ほど、毎年25%-30%増加してきた販売台数が、2011年には2.5%増と急減速した。1つの原因は、リーマンショック対策で新車購入補助金を出してきたが、それが終了したこと。しかし新車の潜在的需要はまだまだある。問題は急速なモータリゼーションの結果、インフラ整備が追い付かないことだ。特に需要の大きい都市部は、車の氾濫で交通渋滞は想像を絶する。人々の環境意識も車の需要に影響を与えている。北京では新車購入に申込み制を取っている。並ばないと買えない。さらにナンバー末尾数が偶数か奇数で、運転禁止の日を設けている。今後の問題は、内陸部でどれだけ販売が伸びるかである。
高度成長のエース、輸出も世界経済減速の影響を受けている。2010年は輸出伸び率が30%を超えていたのが、2011年は20.3%と減速した。輸出入合計では同22.5%増で世界1を維持した。問題はこの数字をどう見るかである。「中国経済の崩壊が始まった」という説もあるが、一方で世界経済減速の影響を受け成長は鈍るが、堅調で潜在力はまだまだあるとの見方も多い。中国経済はまだまだしぶとい。何と言っても財政収入の健全さがある。2011年の財政収入は前年比24.8%伸びた。不景気と言われながら企業所得税(30.5%増)、個人所得税(25.2%増)ともに伸び、財政赤字は当初の見込み「対GDP比2%前後」の半分になった。
世界銀行の予測では、2012年度の各国・地域の成長率は、先進国が0.3%-2.2%と低迷する中、中国は8.4%としている。新興国全体の平均が5.4%だから、依然として高い水準である。