No.62 中国レポート

北京では10月18日に開幕する第19回中国共産党全国代表大会(19大)の話題で持ちきりだ。何と言っても話題の中心は人事、党大会は5年に1度開かれるが、最高指導部に入ると、何らかの事情で失脚するか、年齢制限にかからない限り(党大会の時点で68歳以上は引退、67歳以下は残留可能)、2期10年は務めることができる。従って10年に一度はトップ交代の人事大会になるわけだ。中央委員会、同政治局、同政治局常務委員会のメンバーは一応選挙で決められるが、事実上は大会までに決まっている。今回の場合これまでの内規に従えば、中央委員会政治局常務委員会の7人のメンバーのうち、年齢制限により習近平(党総書記、国家主席、中央軍事委員会主席)と李克強(国務院総理)以外の5人は交代することになる。そして慣例に従い、次の5年後のポスト習近平を見据えた2人の比較的若い後継者がトップ7に入ることになる。2人のうち1人は習近平の後継者、もう1人は李克強の後継者となる。
今回特に人事が注目を浴びているのは以下の理由だ。①昨年まで、ポスト習近平として2人の若手が注目されてきた。1人は現在広東省党委員会書記を務める胡春華(党中央政治局委員)、もう1人は腐敗を理由に最近重慶市党委員会書記を解任、党籍をはく奪され、司法当局の手に送られた孫政才(前党中央政治局委員)だ。それまで下馬評は習近平の後継者は胡春華、李克強の後継者は孫政才ではないかと言われてきた。その意味で、19大でこの2人はトップ7に入るのは「当確」とされてきた。ところがここにきて孫政才は脱落、胡春華についても「当確」から「有力」、「有力」から「可能性あり」に大きく後退している。胡春華は前共産党トップの胡錦濤や李克強の出身母体である共産主義青年団(共青団)出身であり、内モンゴル自治区党委員会書記、広東省党委員会書記を歴任、幹部候補生の道を順調に歩んできた。ところが、習近平の「共青団改革」が始まり、共青団のトップは直接最高幹部への階段を上らせないという方針が打ち出された。最近も共青団第一書記を務めていた秦宜智(51)が食品安全を管理する「国家質量監督検験検疫総局」(質検総局)副局長に任命された。これまでの慣例からすると共青団トップを務めると、地方の副省長か市長に転出し、一定の時間をおいて省長か副省長に昇格するのが一般的であった。従ってこの人事は明らかに左遷である。これで、つい最近まで「当確」がついていた胡春華のトップ7入りに赤信号が灯ったと見る人が多くなった。これは新トップ7の勢力図にも関係がある。7人のうち確実に残る李克強と、ほぼトップ7入りが確実な汪洋(党中央政治局委員、国務院副総理)は共青団出身であり、さらに胡春華が加われば共青団出身が多すぎることになり、習近平が嫌うだろうから、胡春華のトップ7入りは難しいとあるジャーナリストは解説してくれた。
②王岐山(党中央政治局常務委員会委員)の処遇についても諸説があった。習近平人気を支えている大きな理由は「反腐敗」運動である。習近平の下でこの反腐敗運動を取り仕切り、時には無情なほど厳しい摘発を行っているのが王岐山だ。今や習近平にとって無くてはならない人材である。巷の噂では、習近平は19大時点で68歳を超える王岐山に残留してもらいたいと強く望んでいるという。ところが、王岐山を残すなら、他の年齢制限を超える幹部を含め、不満が噴出しかねないので、党内の安定を必要とする習近平としてはジレンマなのである。最近、王岐山が健康上の理由も含め、引退すると表明したとの話が流れ出した。さて19大で王岐山の処遇はどうなるのか、そしてもし王岐山が引退するとしたら、今後反腐敗運動はどうなるのか、多くの人は注目している。
さて、以上は生々しい政治の話題だが、話題を変えて庶民の生活に焦点を当ててみる。
最近北京の街に突然自転車が溢れ出した。それもオレンジ色と黄色の自転車だ。昨年夏以降急速に増えだしたシェアサイクルである。運営体もどんどん増えているが、目下オレンジ色の「摩拝単車」(Mobike)と黄色の「共享単車」(ofo)が圧倒的シェアを誇っている。シェアサイクルの普及は政府の方針でもあり、市民にも大いに歓迎されている。政府にとっては、乗用車の制限になり、環境問題と渋滞問題を緩和させることになる。市民にとっては、とにかく便利で、駐車場確保に悩むことも無いし、ガソリン代節約になる。敢えて車を買う必要性が低くなり、自動車ローンの圧力から解放される。利用後はどこに乗り捨てても構わない。
利用法は簡単だ。先ずパスポートなどの身分証明書を運営体に送信し、本人認定を行い、299元(約5000円)のデポジットを支払い(Mobikeの場合)、スマホにシェアサイクルのアプリを入れれば準備完了。利用時はGPSでシェア自転車がある一番近いところはどこか調べる。自転車置き場に行ったら、アプリで自転車のQRコードを読み取り、ロックを解除すれば自由に乗れる。使い終わったら、アプリの「終了」ボタンを押せば、自動的にロックがかかり、その場で決済する。料金は驚くほど安い。30分利用で0.5元(約8円)、1時間で1元(約16円)。決済は、中国ネット通販最大手のアリババによる決済システム「アリペイ」(支付宝)や8億人が利用している中国版ライン「微信」の決済システム「ウィチャットペイ」(微信支付)を利用し、登録した銀行口座から自動引き落としにする。
あまりにも急激に増えすぎたため、問題も起きている。どこにでも乗り捨てられるので、駅周辺など自転車が大量に放置され、通行の妨げとなっている。また利用者のマナーも問題になっている。
しかしとにかく便利で安いので、利用者は爆発的に増えている。私の友人は自宅が最寄りの駅から遠いので、車出勤していて、毎日渋滞に悩んでいたが、最近はシェアサイクルを利用し、近くの自転車置き場から駅まで自転車で行き、地下鉄に乗り、駅から仕事場までまたこのシェアサイクルを利用している。
中国ではスマホ利用のオンライン決済システムが急速に普及している。中国と言えば「銀聯」カードが有名だが、すでにカード決済は過去のものとなりつつある。アリババグループが提供するオンライン決済サービス「支付宝」を例にとると、人々はスマホにチャージしたお金ですべての支払いを行う事ができる。このシステムはカード不要で、全ての支払いがスマホで出来る。また次のような利点がある。①手数料不要。②なんでも決済できる。電気、ガス、ネット使用料、携帯代、タクシー、全ての商店での買い物、航空チケット海外送金、友人や知人への送金、割り勘代の支払いなど。③「支付宝」にお金をチャージし、「余額宝」に預けるだけで、年率5.23%の利息が得られる。元金保証、預金は1元から可能で、いつでも解約できる。④ネットバンキングで銀行口座からリアルタイムでチャージできる。
北京ではほとんどの人が現金やカードを持っていない。現金で買い物し、支払いするのは外国人だけと言っても過言でない。中国では通販の普及で、段ボールが不足するなど、ネット、スマホ社会が凄まじい勢いで進行している。(止)。
2017年10月1日 西園寺一晃