No.31 中国自動車メーカーの戦略転換

 2012年第2四半期の成長率は7.6%と、第1四半期の8.1%からさらに減速した。輸出の低迷が大きな原因の1つだが、最大の輸出相手EUの混乱が最大のマイナス要因だ。対米輸出はやや持ち直しているが、米国経済も依然不安定だ。外需型成長モデルの中国経済は、当然国際経済の動向に左右される。政府は経済の落ち込みを防ぐ一環として去る6月、3年半ぶりに商業銀行の貸出基準金利と預金基準金利をそれぞれ0.25%引き下げると発表した。この措置により貸出基準金利は、期間1年もので6.31%となる。また定期預金基準金利(1年もの)は3.25%となる。ここにきて、消費者物価上昇率は3%を切るまで落ちたので、かろうじてプラス金利になっている。
 内需の相対的低迷が、経済成長減速のもう1つの原因だが、これまで内需を先導してきた不動産と新車販売の落ち込みが激しい。不動産の落ち込みは、政府の過熱抑制政策によるものだ。新車販売は過渡期で、内陸部の都市化がさらに進めば、新車に対する潜在的需要はまだまだあると思われる。自動車各社はこれまで設備投資を積極的に行い、生産能力を高めてきた。数年前は需要に供給が追いつかず、新車を買うのに何か月も待たされる現象すらあった。ただ、新車販売の落ち込み問題はそう単純なものではない。都市部ではインフラ(道路)が車の急増に対応できず、猛烈な渋滞を引き起こし、全体の経済に悪影響を与えたため、新車販売の制限をしている。それだけでなく、北京などでは以前はナンバープレート末尾偶数、奇数で運転制限をしていたが、現在は曜日ごとに、例えば月曜は2、7、火曜日は3、8というように末尾2つの数字を制限するようになっている。富裕層は対策として、車を複数台持つ人が多い。大都市では中流階級がハイスピードで増加している。この中流階級の車に対する需要は大きい。買いたくても買えない、売りたくても売れないという悩ましい状況が大都市にはあるのだ。販売店は潜在的需要が眠っている内陸部にシフトしているが、需要がすぐに急増するわけではない。ただ中期的に見ると、内陸部の新車需要は大いに伸びる可能性がある。内陸部の都市化が進み、所得が増えれば、都市に比べ交通の便が悪い内陸部で、新車に対する需要は急増するだろう。
 自動車各社は内陸部の需要増加を待っているわけにはいかない。国内市場での激烈な競争もある。そこで各社とも海外に活路を見出そうとしている。メイド・イン・チャイナの車の輸出振興作戦だ。これまで新車の国際市場は西欧、米国、日本の各社がシェアを分け合っていた。そこに割り込んできたのが韓国であり、その後を中国が追おうとしている。もちろんまだ中国車のシェアは微々たるものだ。しかし、価格の面で欧米、日本はうかうかしていられない。中国の作戦は欧米、日本車にまだ到底勝てない先進国の市場を避けて、発展途上国から攻めるやり方だ。中国革命方式に模して世界の「農村から都市を包囲する」戦略とも言える。
 中国には第一汽車、東風汽車、上海汽車、奇瑞汽車、吉利汽車、長城汽車、江淮汽車など多くの自動車メーカーがある。ほとんどが欧米、日本、韓国のメーカーと提携している。このうちの多くは海外戦略を打ち出している。上述のように国内の道路などのインフラの遅れ、競争の激化などで海外進出を考えざるを得ない事情がある。その一方で、「外に打って出ろ」という政府の方針が追い風になっている。
 中国が自動車の輸出に着手したのは2005年ごろからである。当初は商用車が中心で、輸出先は中央アジア、ロシア、中東など限られていた。その後、商用車に代わり乗用車が主役となり、東欧、アフリカや南米にまで輸出先が拡大した。今年の第1四半期は、対昨年比14.2%の二桁成長だった。
 幾つかのメーカーの海外戦略を挙げてみると(朝日新聞6月27日報道):
 メーカー  2011年実績   2012年目標
 奇瑞汽車  16万台      20万台
 長城汽車   8万台      10万台
 浙江吉利   4万台       8万台
 などだ。これらメーカーはエジプト、イラン、ウクライナ、ウルグアイ、ブルガリア、ロシアなどに組立工場を持っている。今後は政府の後押しの下、海外展開が急速に進むだろう。品揃えが豊富になり、性能もまあまあなら、価格の安さで欧米車、日本車にとって脅威となるだろう。テレビなどの家電は、長期にわたり日本が「1人勝ち」だった。ところがあっという間に韓国に追いつかれ、追い越された。自動車分野も油断してはいられない。遠くに韓国、中国の足音が聞こえてきた。