世界同時金融危機を短期間で克服した中国だが、その過程で中国経済の力強さと問題点が同時に明らかになった。一言で言えば、中国にはまだ内陸部を中心に厖大な内需が眠っている。これを掘り起こすことに成功すれば、中国経済はまだまだ発展する余地は充分にある。一方で、中国経済はいま曲がり角に立っている。これまでの輸出、外資導入を中心とした外需型成長は行き詰まりつつある。これを内需型の成長に転換しない限り、中国経済の持続的発展は厳しくなるだろう。
以上のような深刻な問題をも内包する中国経済ではあるが、一般国民(主に都市住民)の間ではあまり危機感は無く、現状にはほぼ満足し、将来への期待も大きい。そういう中で、今大きな話題となっているのは、一人っ子政策の見直しと一人っ子2世の誕生。もう一つは海外旅行ブームだ。
一人っ子政策が決定されたのは1979年で、具体的に施行されたのは80年代に入ってからである。一人っ子政策が施行されてから、中国の出生率はぐんと減った。それまではどこに行っても子供の姿が目立ったが、徐々に少子化が進み、街や公園でもあまり子供の姿が目立たなくなった。ところがここ数年、やたら子供の姿が目立つようになった。公園などには、ベビーカーに子供を乗せた中高年の女性の姿を良く見かける。中国は共働きが多いので、昼間は託児所や保育園に子供を預けるケースが多いのだが、ベビーカーを押している中高年の女性は祖母か子守専門のお手伝いさんである。
実はいま中国では出産ラッシュなのである。1949年の建国以来何度かのベビーブームがあったが、中国はいま第4次ベビーブームに入っている。1980年以降生まれた「一人っ子1世」が出産適齢期に入ったのだ。このベビーブームは2005年あたりから始まり、約10年続くと言われる。ここ数年では「猪年(猪は中国ではブタの意味。日本ではイノシシ年だが、中国ではブタ年)の金のタマゴ」、「北京五輪記念ベビー」で、その年は特に出産が多かった。多くの地域では、一人っ子同士の夫婦は、実質的に2人まで生んで良い。これは実験的「試行」であり、法的には一人っ子政策は変わっていない。「一人っ子2世」はベビーブームの10年間に、年平均1600万―1800万誕生すると言われる。学者だけでなく、国民の間でも次のような議論がホットに展開されている。①一人っ子政策を撤廃すべきか否か。②一人っ子1世は「小皇帝」と言われ、「4対1」(両親と祖父母に溺愛される)の結果、わがままで軟弱であることが社会問題となっていた。2世は「6対1」(両親と両方の祖父母)と言われている。一体どういう人間に育つのか、またどのような教育が必要なのか。③1世は消費志向が強く、古い世代に比べ贅沢である。さらに2世が生まれ、これから勤労人口の多くが一人っ子になって行く。その時、中国の消費構造はどう変化してゆくのか。④中国は将来的には少子高齢化が進み労働力不足が起きるが、当面の問題は、軟弱な一人っ子は3K職場には就きたくない。今後農民の生活が向上し出稼ぎ農民が減れば、製造業や建設業で労働力の不足が現実化する。これは外資導入にも大きく影響する。この問題をいかに解決するのか。
さて、もう一つのホットな話題は海外旅行。特に大都市では海外旅行がブームになりつつある。これまでは富裕層が海外旅行に出かけたが、徐々に中間層にまで広がりつつある。このブームを後押ししているのは、中国の外貨準備の急膨張、富裕層の増大、中間層の形成、各国の中国観光客誘致合戦である。1999年に約950万人であった中国人出国者は、2008年には約4600万人になり、今後は急カーブを描いて増えると予想される。特に日本への観光志向は確実に高まっている。2008年のある調査によると、日本に「非常に行きたい」、「行きたい」が計54%だったのが、今年の調査では60%を超えた。主な理由は「日本人の親切さ、礼儀正しさ」、「自然の美しさ」、「和食への興味と食品の安全性」、「治安の良好さ」、「家電、カメラ、化粧品など買い物への魅力」など。若者の間では圧倒的に「日本発のポップカルチャー」が人気だ。さらにここ数年の対日感情の好転も追い風となっている。
日本は中国人観光客へのビザ発給条件を緩和したが、各国とも中国人観光客誘致にさまざまな方策を取っている。韓国はマルチビザ取得の条件を緩和、期間も1年を3年に延長した。アジアでは日本、韓国、ASEANが三つ巴で中国人観光客の争奪を始めた。観光資源豊富な、そして中国総領事館もできた新潟も、この機会を逃す手は無い。