中国の不動産価格高騰が止まらない。この問題に対し、温家宝首相が「住宅価格の急騰を断固食い止め、人民大衆の基本的な住宅需要を満たさなければならない」と決意を述べるなど(3月の全国人民代表大会)、中国政府は対策に躍起となっている。
中国の不動産業界は、世界同時金融危機で大きな痛手を被ったが、中国経済の復興を先導するようにいち早く復活した。問題なのは、実質住宅需要が多いのに、価格上昇が続いたため、本当に住宅が必要な庶民が買えないことである。不動産に投機マネーが流れ込み、価格が実態を大きく上回る上昇を引き起こしているのだ。庶民の不満、フラストレーションは高まっている。
全国主要70都市の不動産価格上昇率は、政府が預金準備率を今年に入り3度引き上げるなど、さまざまな措置を講じているにも関わらず、上昇を続けている。2009年12月は平均で前年同月比+7.8%だった。2010年に入り、1月が同+9.5%、2月が同+10.7%、3月が同+11.7%、4月が同+12.8%と右肩上がりだ。特に顕著なのは、深圳、広州を中心とした珠江デルタ経済圏。そして政府が2020年までに世界有数のリゾート地にすると宣言した海南省の省都海口では、4月の不動産価格が1年前と比べ1.5倍に急上昇した。北京でも上昇率は同14.7%と大きなものだった。
では、不動産に流入した厖大な投機マネーはどこからきたのかだろうか。幾つかの原因が考えられる。
① 政府が金融危機対策の重要な一環として、内需拡大のために投入した4兆元のうちの一部が悪用され、不動産投機に回っている。
② 政府の政策に呼応し、銀行が貸し出し枠を大幅に拡大したが(09年は9兆5900億元)、銀行融資資金の一部が不動産投機に回っている。
③ 福祉の整備充実で、ここ数年保険業界が厖大な資金を集めているが(1980年代日本の「生保マネー」と似ている)、その資金が株式と不動産投機に流れている。
④ 市場経済化の中で、急成長した企業、それに多くの資産家が生まれた。それら企業と資産家の一部が資金運用として、不動産に投資している。
以上はどれも投資、投機であり、自分が住むためにマンションや住宅を買ったわけではない。この投機合戦が不動産価格を上昇させ、バブル的現象を招いている。大都市ではここ数年「億ション」が飛ぶように売れ、高級なマンションや一戸建て住宅がどんどん出来たが、多くは「売れたが、空室のまま」という状態が続いている。当然一般庶民はこの状況に怒りを募らせている。
不動産高騰のもう一つの要因は、人民元の対米ドル相場が急騰しないよう中国人民銀行が実施している「ドル買い元売り」だ。この「外貨平衡操作」の結果、国内で資金がダブつき、それが不動産に流れている。
もちろん中国政府も手をこまねいているわけではない。銀行貸し出し枠の拡大政策に変化は無いが、その資金が不動産投機に回らぬよう、政府は監督を強化している。また政府は4月中旬、個人が2軒目の住宅を買うため、銀行融資を受ける場合(住宅ローン)の頭金比率を40%から50%に引き上げ、3戸目のマンション購入の場合のローン停止など、不動産投機抑制策を次々と実施している。
このような政府の一連の対策で、不動産市場には変化が出始めた。企業も投資家も露骨な不動産投機がし難くなった。また一般庶民はこれまで、天井知らずの不動産高騰で、買える人は早く買い、買えない人は諦め、せめて乗用車をと車購入に走る人が多かったが、住宅価格の値下がりを見込んで、買い控えをする人、やはり車より住宅と、値下がりを待つ人が増えた。その結果、4月の住宅販売面積は3月より180万平方メートル少ない7249万平方メートルだった。このまま推移すれば、不動産業界は値下げ合戦に入らざるを得ないだろう。それが緩やかに進むのか、あるいは劇的なバブル崩壊になるのかはまだ見えてこない。
このような不動産価格の高騰は、思わぬ副産物を生んだ。それは人民元切り上げ論争である。これは中国政府にとって大きなジレンマだ。不動産を含む4月の消費者物価指数は、前年同月比2.8%上昇した。景気回復で、このまま推移すれば、政府の目標である「3%以内」を突破する可能性は大だ。そうすると、政府はインフレ圧力を受けることになる。これまでは金融危機下、デフレ克服に努力してきたが、今度はインフレの危険に対処する必要に迫られることになる。不動産価格高騰を抑制し、インフレを抑えることからすれば、人民元切り上げは有利に作用する。さらに小幅でも人民元を切り上げれば、欧米の切り上げ圧力を緩和することが出来る。しかし、まだ完全復活とまでは言えない輸出からすれば、人民元切り上げは大きな打撃となる。特に中国の輸出はこれまで主に労働集約型中小企業がその6割を担ってきた。今回の金融危機で、それら中小企業が大打撃を受けたわけで、その傷はまだ完全には癒えていない。加えて、ここで人民元の切り上げをすれば、「欧米の圧力に屈した」と言われるだろう。政府としては、それだけは避けたいところだ。切り上げるにしても「中国独自の判断で、中国の必要に従って切り上げた」としなければならない。
中国は急成長したが故に、問題は山積している。これらの問題を解決、緩和させながら、胡錦濤指導部が目指す「調和の取れた持続的発展」を実現することが出来るのか、中国経済は構造改革の成否を含め、転機に立っていると言える。