No.24 米中関係と中国経済の近況

 今年の4月、象徴的な出来事が上海とニューヨークであった。この両都市でモーターショーが開かれた(上海は4月19日開幕、ニューヨークは同20日開幕)が、上海会場には世界の最先端車が並び、主要メーカーの首脳が参加した。一方のニューヨーク会場は、これまでの高級車主体から一変し、「低燃費車ショー」の様相を示した。車の生産、販売の先導役は米国から中国に移ったことを世界に示すこととなった。中国紙「財経日報」は誇らしげに「上海ショーは超豪華車の盛宴」と報じた。専門家によると、2015年には中国の自動車生産は4000万台を超えるという。自動車の国内市場も拡大するだろう。
 5月初め、ワシントンで第3回米中戦略・経済対話が行われた。この戦略・経済対話は、ブッシュ米前政権時に経済対話として始まり、オバマ政権が安全保障・軍事分野を加え、さらにアジア太平洋全域を包括した枠組みに発展させたものだ。ガイトナー米財務長官と王岐山中国副首相は10日、「成長と経済協力に関する米中の包括的な枠組み」と題する文書に調印した。文書は「世界1、2位の経済大国である米中の経済発展と政策はグローバル経済の健全性に重要な影響を及ぼす」と述べ、米国が世界経済に及ぼす中国の決定的な影響力・役割を確認する形になった。このことは実質的に、G8からG20へ、そしてその中核はG2だと世界に宣言したとも言える。
 米中間にはさまざまな矛盾、溝がある。米国側は「人権・民主化」と「人民元」で中国を攻め、中国は間接的ながら、「軍事力の暴走」、「ハイテク製品の対中国輸出規制」で米国を攻める。米国の軍事力優位は変わらずとも、中国は米国債の最大の保有国であり、最大の外貨準備保有国(3兆ドルに上る外貨準備のほとんどは米ドル)である。要するに米中は本気でケンカができない関係になっている。この関係は米中実力の接近が進み、長期的に変わることはないだろう。当然米国はアジア戦略において、最重要国を日本から中国にシフトすることになるのは目に見えている。と言うより、米国にとってアジアにおける最重要国はすでに中国となっている。
 米中実力の接近と言えば、IMFが興味深い見解を示している。購買力平価によるGDPでは、今年のGDPは中国11兆2000億ドルで、米国は15兆2000億ドル。ところが2016年には、中国が19兆ドルとなり、米国の18兆8000億ドルを抜き、その差は開いてゆくと予測する。今後中国の為替制度がどうなるかにより誤差は出ようが、この趨勢は変わらない。米国はますます中国を無視できなくなる。
 さて中国経済だが、今年第1四半期(1-3月)の成長率は9.7%と依然高い。しかし政府の懸命な努力にも関わらず、インフレ傾向が止まらない。中国人民銀行は5月12日預金準備率を0.5%引き上げた。市場に溢れた資金の回収を目指し、インフレを緩和させ、物価の上昇に歯止めをかけるためである。今年5回目の引き上げである。中国政府は3年ほど前までは、消費者物価指数(CPI)を3%以内に抑える方針だったが、その後4%以内とした。それでも3月は5.4%、4月は5.3%と高い伸びで、特に食品、日用品などの値上がりは庶民生活を圧迫している。中国人民銀行金融政策委員の1人は、今年通年の上昇率は、4%以内に収まらず、4.2%-4.3%程度になるだろうと予測、「今後5年―10年は比較的高い水準が続くだろう」と述べている。
 中国にとってジレンマなのは、人民元を安く抑えるためには大量のドル買いをしなければならず、それはインフレ要素となる。人民元の上昇を容認すると、輸出が不利になる。リーマンショック以降、中国は「外需型成長」から「内需型成長」への転換に必死だが、輸出の重要性は変わらない。その輸出は、部品、エネルギー、人件費などの高騰にも関わらず依然として好調を維持している。今年第1四半期(1-3月)こそ、中国の貿易収支は7年ぶりの赤字(10億2000万ドル)となったが、単月では3月からプラスに転じ、4月はプラス114億ドルであった。
 中国の輸出好調、貿易総額の増大の影であまり目立たないが、人民元が確実に国際通貨に向かっている。人民元建て貿易決済は、11年1月―3月で、3603億元(約4兆5000億円)に上り、昨年通年の7割になった。これは中国の全貿易額の7%で、昨年同期の2.6%から大幅に上がった。今はまだ香港、シンガポールなどアジアが主だが、各国とも為替変動リスクの少ない人民元決済を歓迎している。人民元の信用度上昇は、中国経済の実力上昇に裏づけされている。
 旺盛な経済活動は健在だが、この夏電力が不足するのではないかとの懸念が高まっている。工業生産用の電力需要が大幅に伸びていて、1月―4月の電力消費は昨年同期比12.4%アップした。すでに湖南、江西、浙江各省では、供給制限をしている。そんな中、深圳市にある「嶺澳原発4号機」が6月15日から稼動する。福島原発事故以降、世界初の新設原発である。