No.43 中国レポート

日中関係は相変わらず厳寒期にある。このような状況の中で気の毒なのは中国内の知日派の人たちだ。冷静な発言をすると、一部の強硬派から「親日」と罵られる。長年日本との交流に携わってきたAさんは、「物言えば唇寒しです」と苦笑していたが、同時に「でも、安倍さんの『反中国包囲網』作り一直線は異常です。中国の中で何とか対日関係を改善しようと努力している人たちの足を引っ張っている」と嘆く。
その日中関係だが、ともすると「尖閣(中国名「釣魚島」)問題」や「歴史認識問題」だけが表面化し目立つが、さまざまな分野で日中(あるいは日米と中国)間の対立、暗闘が進んでいる。最近話題になっているのは国際金融面での日中の綱引きだ。
去る5月にカザフスタンで開かれたアジア開発銀行(ADB)の会合は、日本が「してやったり」、中国が「怒り心頭」の結果で幕を閉じた。ADBは「アジア・太平洋における経済成長及び経済協力を助長し、開発途上加盟国の経済発展に貢献することを目的に設立された国際金融機関」(ウィキペディア)。設立は1966年で、現在67か国、地域が加盟している。設立当初から日本の旧大蔵省が深くかかわり、大蔵省の意向を強く反映して設立された経緯がある。これまで旧大蔵省、財務省、日銀OBが9期連続で総裁を務めてきた。議決権は出資比率に基づくが、最大の出資国は日米で、それぞれ15.6%。中国は6.4%、インドが6.3%、オーストラリアが5.8%などとなっている。莫大な外貨準備を有する中国は、出資比率を増加させ、ADBにおける発言権を強化しようとしたが、日米など先進国は中国の要望を退けた。そして今回も総裁は日本の中尾武彦氏が就任した。こうして、ADBは依然として日本主導が継続された。
中国の言い分は、1966年からこれまで半世紀近くが過ぎ、国際情勢、国際金融情勢は大きく変わった。ADBも旧態依然の状態から脱却し、現在の情勢に合った形に変えるべきだというもの。中国にしてみれば、すでに世界第2の経済大国になり、世界の外貨準備の3分の1近く有しているわけだから、中国の発言権(貢献度)は増すべきだと考えるのは、ある意味当然だ。ところがそれを阻止しているのが日本だというわけだ。他の先進国には悩ましい事情がある。融資枠を増やして、発展途上国のニーズに応えなければならないが、出資を増やす懐状況ではない。とは言え、中国の発言権があまり強くなるのは困るというのが正直な気持ちだ。
それならばと、中国は思い切った行動に打って出た。「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)の設立に動いたのだ。事実上はADBの対抗軸だが、もちろんそうは言わない。「ADBを補完する」(楼継偉財務相)と述べている。ADBの中尾総裁も、表面的には「ADBはAIIBと協調して融資する」と述べている。なかなかの暗闘ぶりだ。
融資を受ける側の発展途上国は、歓迎の姿勢を示している。融資する国際金融機関は多いほど良いし、複数が競争することは受ける側に有利である。さらに融資条件の厳しいADBに比べ、AIIBは融資条件が緩やかになる可能性が高い。韓国をはじめ、中国と領土問題で対立するフィリピン、ベトナムを含め、すでにアジアの16か国が参加を表明し、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、インドなども興味を示している。中国の出資比率などは決まっていないが、設立は来年になる見通しである。このように日本が主導するADBと中国が主導するAIIBが近い将来併存することになる。
中国では、これまでの欧米中心の国際秩序を変えなければならないという機運が高まっている。背景には相対的に弱体化する米国、大国化する中国の力関係の微妙な変化がある。GDPで言えば、2020年頃には、中国のGDPは米国に並ぶと言うのが大方の見方である。多くの研究者は、日本の「集団的自衛権」問題もこの力関係の変化の表れとして取らえている。ある研究者は「米国が相対的に弱体化し、もう『世界の警察官』の役目を担うことが困難となった。至るところで武力介入する経済的余裕もなくなった。しかし米国の覇権は維持したい。そこで一部を日本に軍事的肩代わりをさせるために、集団的自衛権を急がせた。安倍政権は米国に恩を売り、米国の後ろ盾の下で『強い日本』の再現を図り、台頭する中国に対抗するため、あれだけ急いで閣議決定をした」と分析していた。
ともあれ、日中の対立関係は残念ながら多分野にと拡大している。ただ、これ以上の悪化は危険だという冷静な意見も強くなっている。日中とも国内に多くの問題を抱え、経済の立て直し、改革、転換が最重要課題であることは同じだ。対立のエスカレートは経済に悪影響を及ぼす。
数年前の「反日暴動」の時と比べ、北京市民の意識は大きく変わった。当時は「日本憎し」の機運が強く、少なからずの人は「日本の全てが嫌い」という方向に流れていた。しかし、現在多くの人は「良いものは良い、悪いものは悪い」と客観的になっている。これだけ日中関係が悪くても、訪日観光客は増え、日本の漫画やアニメを絶賛、和食屋さんも繁盛しているのがその証拠だ。(止)
2014年7月22日 西園寺