昨年12月20日、中央経済工作会議が北京で開かれた。この会議は毎年この時期に開かれるもので、次年度の経済分野における方向性を定める中国共産党の経済方針である。この会議で提起された方向に沿って、翌年の3月に開かれる全人代(全国人民代表大会)は、この党の方針を具体化、政策化する。
現在の経済状況を党はどう見ているのかという点では大変興味深い。一口で言うなら、党は経済に一定の自信を持っているが、改革は緒に就いたばかりで、手放しで楽観しているわけではないということだ。
国営通信社である新華社の報道によると、会議では「経済は全体的に安定し、農業生産は再び増産を勝ち取り、構造調整が新たに進展し、改革・開放の度合いが強まり、人民の生活が引き続き改善し、社会の大局が調和、安定した」として、経済の現状を肯定的に見ている。しかしその反面、経済の現状を楽観視しているわけではなく、「経済に見られる下振れ圧力、一部業種の深刻な生産能力過剰問題、難しさを増す食糧安全保障、マクロ債務レベル持続的上昇、構造的就業矛盾の突出、生態環境の悪化、食品・薬品の品質懸念、芳しくない社会治安状況など際立った問題に依然緩和が見られない」と警戒心を持っていることがわかる。
また世界経済については、「来年(2014年)、世界経済は依然ゆっくりとした回復が続くとみられるが、不安定、不確実要素が存在し、新たな成長の原動力の源がまだ明確ではなく、大国の金融政策や貿易・投資の構造、大口商品の価格変化動向にみな不確実性がみられる」と認識している。日本政府は2014年の世界経済についてかなり楽観的な見方をしているが、中国のほうが厳しい見方をしているようだ。
経済専門家の間では、当面の経済状況について見方の相違があり、比較的楽観論者もいれば、現状を深刻に捉えている者もいる。しかし多くの専門家は、中国経済は底を脱して、緩やかに上昇しつつあるとみている。中国はこれまでの輸出、外資導入、固定資産投資に頼る成長モデルを、より内需に依存する新たなモデルに転換しなければ持続的発展はないとし、産業構造を含めた経済構造の転換に向けすでに舵を切っている。ただ内需拡大には時間がかかる。現実的には、中国経済の回復と安定的、持続的発展には、輸出の回復が必要であり、内需としてはこれまで高度成長のけん引してきた新車販売の回復が不可欠だ。その点では、2013年の貿易額(物の輸出入)が米国を抜いて世界一になったこと、新車販売台数が2000万台を突破し、5年連続世界1になったことは、中国にとっては明るいニュースだ。
中国税関総署の発表によると、2013年の輸出入総額は対前年比7.6%増の4.16兆ドルで、米国を抜いて初めて世界の首位に立った。目標は対前年比8.0%増だったので、手放しでは喜べないが、2012年が対前年比6.2%増だったので、回復基調にあると言える。貿易相手別では、EU向けが2.1%増と回復、米国向けも7.5%増とまずまずだった。しかし日本向けはマイナス5.1%で前年に続いてダウンした。依然日中関係の悪化が経済の足を引っ張っている。
自動車工業協会の発表によると、2013年の新車販売台数は、対前年比13.9%増の2198万4100台で、世界で初めて2000万台の大台に乗った。中国の新車販売は2010年までの10年間25%-30%の伸びを見せていたが、2011年、2012年の伸び率は5%を切り、低迷期に入っていた。それがここにきて二桁の伸びに回復したわけで、中国経済にとっては朗報と言える。潜在的需要と今後見込まれる消費者の収入増で、新車販売は上昇を続けるだろう。マイナス成長の日中貿易の中で大善戦したのが日本車販売である。トヨタ、日産、ホンダの大手3社はいずれも過去最高を記録した。トヨタは対前年比9.2%増の92万台、日産は同17.2%増の127万台、ホンダは26.4%増の76万台であった。特に秋以降の販売台数が飛躍的に伸びた。その意味では、暮れに行われた安倍首相の靖国神社参拝が2014年の日本車販売にどのような影響を与えるか、心配要因だ。
そんな中、2013年の成長率が発表された。7.7%であった。全人代で決まった目標は7.5%なので、上々の結果と言える。名目GDPは56兆8845億元(約980兆円)、日本のGDPは472兆円(2012年)だから、日本の約2倍になったわけだ。成長率の持ち直しの大きな要因は、内陸部の発展とそれに伴う消費の伸びである。人民元高の傾向が続いているので、輸出が伸びているにもかかわらず、輸出の経済成長率に対する寄与度はマイナスだ。成長率に対し約半分の寄与をしたのが個人消費、ここ数年中国の家計収入は10%前後伸びている。物価上昇率は2%-3%だ。2013年の小売り売上高は13.1%増加した。車を筆頭に、携帯電話やスマートフォンなど通信機器販売の伸びも急速だ。高度成長に取り残されてきた、内陸部農村地帯の都市化が一層進めば、工業やサービス業が創出され、さらなる内需の掘り起こしが進むだろう。中国政府のある種の自信はこのあたりが裏付けとなっている。
もちろん不安要素もあり、だからこそ政府は一面自信、一面危機感を持っている。当面早急に処理しなければならないのは、膨らみつつある地方政府の「隠れ債務」問題だ。政府はこれまで公的債務は対GDP比15%と言ってきたが、これは地方政府の債務は含まれていない。ところが中央・地方政府の実質債務は2013年6月現在で約30兆元(約520兆円)であることが判明した。対GDP比53%に当たる。国際的には対GDP比60%以内なら許容範囲と言われているが、放置すれば雪だるま式に膨らむ。「影の銀行」と呼ばれる不透明な金融システム問題とともに早急に解決する必要がある。悪化する環境問題、手を付け始めたが抵抗に遭っている腐敗撲滅も、結果を出さなければ習近平体制の威信が揺らぐ。
日本では習近平の評価は高くないようだが、北京の市民の間では結構人気が高い。経済運営(李克強首相の専任事項)にしろ、腐敗撲滅にしろ、なかなかやるでないかと多くの人は思っている。ただ外交となると点数は低い。近年、中国の経済を中心とする対外進出は、各地でさまざまな摩擦を生んでいる。海洋でも東南アジアのいくつかの国と、南シナ海の領海・領有権を巡り係争が続いているし、東シナ海では尖閣(中国名「釣魚島」)を巡り、日本との対立はエスカレートしている。中国では「中国は発展し、強くなったので、外に打って出て大いに権利を主張するのは当然だ」という意見がある一方で、「中国は依然として発展途上国であり、多くの国々と協調して行かなければこれ以上の発展は難しい」という意見もある。かつて鄧小平は「韜光養晦」(ひたすら腰を低くして、物事を行う)という言葉を多用した。中国はまだまだ発展途上で、弱いので、低姿勢で各国から学び、協調して物事を行うべきだと強調した。「毅然」と「謙虚」をどう両立させるかだろうが、出る釘は打たれるということもあり、実践面ではなかなか難しい。
ともあれ、2014年は中国にとって試練の年となるだろう。産業構造の転換、金融改革や内陸部農村地域の都市化などの改革が軌道に乗るか、腐敗撲滅が進むか、環境問題を緩和させる糸口が見つかるか、米中の「新しい大国関係」が安定するかなど、問題は山積だ。その中でも日中関係は何とかしないと危険なエスカレートが進んでしまう。昨年後半はやっと緩和の雰囲気が出てきたが、安倍首相の靖国神社参拝でまた元に戻ってしまった。中国の知日派たちは安倍政権に対し「米国は失望し、中国は絶望した」と言う。この日中関係も今年はどう動くか、なお不透明である。(止)